海に沈んだ「幻の古代都市」5選、近年になり続々と発掘 いったい何があったのか
黒海の底の町、ファナゴリア
紀元前540年前後、ペルシャ帝国から逃れた古代ギリシャのイオニア人が、黒海沿岸のタマン半島に町を建設した。町の名は、入植者の一人にちなんでファナゴリアと呼ばれた。 海洋交易のおかげで町は栄え、紀元前4世紀には周辺地域のほとんどを支配していたギリシャ人やスキタイ人による国、ボスポロス王国の一部になった。町の名声は高まり、やがて王国の東の首都になる。さらに時代が進むと、今度はローマ帝国の支配下に入り、繁栄を続けた。 ところが紀元後に入ってからの1000年間で、町の運命が変わり始める。大きな地震と泥火山の噴火が海底と町の地盤を弱体化させ、沈下が始まった。黒海からの海水が押し寄せて、町の一部は浸水した。残りの部分は侵略によって破壊され、町は衰退した。 ファナゴリアの遺跡は、1800年代に発見されたが、このとき調査されたのは乾いた陸地部分だけだった。その後水中技術の進歩により、1950年代には、まだ調査されていない0.24平方キロメートルが、海底に眠っていることがわかった。 その後さらなる技術の進歩によって、2004年には灯台か見張り台と思われる大きな構造物の跡が海岸で発見され、3世紀か4世紀頃のものと特定された。2012年には、港の一部と、紀元前1世紀の、非常に保存状態の良い小型軍艦が発見された。
栄華を極めたエジプトの港、トロニス=ヘラクレイオンとカノープス
1200年ほど前、古代エジプトで最も重要だった2つの港がアブキール湾の底に沈んだ。学者たちは、ナイル川河口のデルタ地帯に位置していたトロニス=ヘラクレイオンとカノープスが、海面上昇と慢性的な地震活動による地盤の液状化の犠牲になったと考えている。 トロニス=ヘラクレイオンは、エジプトで最も重要な港湾都市のひとつで、地中海全域からの交易品の玄関口となっていた。町の記録は紀元前8世紀から残っているが、紀元前331年に建設された都市アレクサンドリアの重要性が増すとともに衰退していった。 2000年に、水中考古学者のフランク・ゴディオ氏と欧州水中考古学研究所が、有名なアメン・ゲレブ神殿とその外壁を含むトロニス=ヘラクレイオンの遺跡を発見した。神殿の入り口には、約5メートルの巨大な像が3体立っていた。 それから20年以上かけて考古学的調査が行われ、町の秘密の多くが明らかにされた。航行可能な運河、小さな神殿、無数の船の残骸、数百もの石の錨など、この港がかつてギリシャの商人たちでにぎわった交易の中心地であったことが示された。 一方、カノープスは、プトレマイオス朝のエジプトにおいて重要な宗教の中心地だった。ギリシャとエジプトの神々の特徴が融合したセラピス神の神殿があり、古代世界の全域から巡礼者がやってきて礼拝をささげた。 1933年に、エジプト、ムハンマド・アリー朝の王子だった学者のオマール・トゥスンが漁師と英国人飛行士からの情報提供を受け、初めて考古学的調査を行った。1999年には、アブキール湾を調査していたゴディオ氏のチームが遺跡を特定し、失われた都市カノープスであることを確認した。