結婚してもセックスはしない「友情結婚」相談所を始めて10年目。500人以上を成婚に導く【カラーズ・中村光沙】
入会者に言われた「頑張って人を集めて」
ケンさんの勧めでビジネススクールに通い、経営の基礎を学んだ中村。 事業を始めるときには、周囲から「NPO法人として立ち上げればいいのでは？」という意見をもらうこともあったという。しかし中村は、事業をスケールさせ、より多くの人にサービスを届けられるよう株式会社化することを決めていた。 起業直後は、当然会員ゼロからのスタート。出会い系サイトやmixiの掲示板に、友情結婚専門の相談所を立ち上げる旨を書き込み、集客を図った。 会員を集めるため、オープン直後は会費を一切受け取らないことを決め、1年目は赤字のスタート。資本金の300万円が底をつかないよう、経費もぎりぎりまで切り詰めた。 「こんなに小さな会社だし、しかも私はセクシャルマイノリティの当事者ではない。そんな私に、『誰が身分証明書、年収証明書、独身証明書を出してまで、登録してくれるんだろう』と不安でいっぱいでした」 忘れもしない、初めての入会相談は新宿の京王プラザで行われた。 どんな人が来るのだろう。結婚相談所として、信用してもらえるのだろうか。ぐるぐると不安が渦巻く中村の前に、とある男性が現れた。ゲイだというその男性は、長年友情結婚をしたいと願ってきたが、掲示板で相手を探すことに抵抗があり躊躇していたという。 「初めて会ったその方に『僕のような人はたくさんいる。絶対に需要があるから、頑張って人を集めてください』と言われたんです」 サービスを必要としている当事者の声を初めて生で聞き、「事業が成り立つかも」と中村は予感した。 その予感の通り、入会者は続々と集まり続け、サービス開始から半年後の2015年夏には、会員数が50人を突破。念願のマッチングサービスを開始した。
成婚者が約1年出ず不安に
結婚相談所のシステムは、月額の会費制いわばサブスクだ。そのうえで、ステップが進めばお見合い費や成婚費が発生する。 順調に会員数を延ばしたカラーズは、お見合い費の回収を開始。その後、成婚費を回収するようになり、2015年12月には月会費を回収することになった。 補助金などで何とか耐え忍んでいたものの、資本金が50万円を切るほどの赤字は、そこでようやく黒字に転換。月会費とお見合い費で経費を賄い、成婚費が利益になるという収益モデルが出来上がった。 経営も順調になり始めたカラーズ。しかし中村には次の心配が襲い掛かる。 果たして本当に、このサービスから成婚者が出るのだろうか？ 実績がないうちは、不安にさいなまれる時間もあった。 そんな2016年1月、中村のスマホが震えた。 時刻はもう19時を過ぎていて、そろそろ仕事を切り上げようかというところだった。 シェアオフィスのある6階の窓から青山の街の明かりを眺めながら、中村は通話ボタンを押した。 「僕たち、成婚しようと思います」 そう聞いた瞬間、喜びや安堵、高揚感が一気に押し寄せた。 中村の目からは、ぽろぽろと涙が零れ落ちる。 その電話は、中村がマッチングさせた、40代のゲイの男性とノンセクシュアルの女性が結婚を決めたとの報告だった。カラーズが創業し、約1年で初めての成婚だった。これでようやく、友情結婚相談所がサービスとして成立することが証明できたのだ。 9年たった今でも、この時のことを思い出す中村の目には、うっすらと涙が浮かぶ。
