自分は「ノンケ」

中村は、自身を「ノンケなんです」と淡々と語る。 ノンケとは、同性愛者から見た異性愛者を指す言葉だ。シスジェンダーである中村は、一体なぜセクシャルマイノリティのためのサービスを始めるに至ったのか。 中村は、家庭の都合で高校入学時に渡米。家族とともにカリフォルニアで生活を送った。 ファッションが好きだったことから、ニューヨークの美大に進学。パタンナーとしてニューヨークのファッションブランドでキャリアをスタートさせた。 しかし、そのキャリアは2年余りでついえる。 当時の上司はパタンナーとしての才能にあふれ、日夜デザインのことを考え続ける情熱を持ち合わせた天才だった。中村は、自分と天才との差に気付く。やるからにはトップを目指したかった中村は、「私がいるべきなのは、ここじゃない」と、一人ニューヨークを離れた。 中村が次に選んだのは、母にゆかりのあった神戸の一般企業への就職だった。中学時代に日本を離れたことで感じた、日本の素晴らしさを思い出してのことだった。 本社をサンディエゴに構える3Dメガネの製造販売会社では、仕入れや在庫管理の仕事に没頭。「仕事が好きすぎるんですよ」と笑う中村は、自分のある性質を発見した。 「私、サラリーマンが向いていないなって。『もっとこうしたらいいのに』という考えがどんどんわいてくるけど、会社員にはそれを決める権限がない。『ああ！社長の決定権がほしい！』っていつも思っていました」 そうして中村は漠然と、起業をすることを想像し始める。その背景には、姉の影響もあったという。 高校時代から「国連で働く」という目標を持っていた姉は、自分の意志で徳島県の高校からアメリカの大学に進学。夢を叶えて、アメリカで国連職員になった。 その姉は、裕福な家庭の末っ子に生まれ、家族の愛を一身に受けていた中村に向かって、口酸っぱく「親に頼らず、一人で生きていきなさい。自立をしなさい」と言い続けていたという。 その言葉も背中を押し、中村は経営者を志し始めた。