ハービー・山口の写真人生【前編:壁作らず交流したら幸せになれる】
「偶然が僕を支えている」無名時代のボーイ・ジョージとルームシェア
そうした努力とは別に「運」も持っていたようだ。 「貧乏生活なんでルームシェアをしてしのいでいたのですが、その中にデビュー前のボーイ・ジョージがいたんです。だからすごく親しいんですね。彼が日本にツアーに来た際に僕がツアーを追いかけることになるわけです。他のカメラマンよりグッと距離感の近い写真が撮れるじゃないですか。そうすると他のレコード会社の人も僕の写真を知ってくれる。そういう偶然のコネクションが生きたときもありますね」 ボーイ・ジョージとの交流は今も続く。 「2016年に来日したときはステージの上から呼んでくれました。『今日はベストフレンドが来ているはずだ。どこだい?』って。僕は暗闇の中にいたんで手を振ったんだけどわからなかったみたい。後で楽屋に行って30年ぶりの再会をしたんですが、そのとき撮った写真が金髪の女の子を抱きつつも僕のことを指で『おっ、ハービー』って笑顔がこぼれて。お互い『元気だったかぁ~』って。こういう偶然が僕を支えているのは感じます」
結婚前のダイアナ妃を至近距離から撮影
前項の学生時代に撮影した安保関連のデモ隊の写真は、ハービーさんがスローシャッターを開けている最中に偶然マスコミのカメラマンがフラッシュを焚いたため、人の流れが幻想的に写った。まだチャールズ王太子と結婚する前のダイアナ妃の写真も、偶然の出会いがもたらした。 「ダイアナ妃が住んでいたマンションに僕の友だちが住んでいたんです。ある日電話がかかって来て『ここ2、3日、パパラッチが来てる。彼女きっと有名になる人だからあなたも明日撮りに来なよ』って言われて。まだお妃にもぜんぜん決まっていない頃だったから記者の人たちにもフレンドリーだし、護衛の警察もいないし、それであの距離で撮れたんです。望遠レンズじゃないですからね。それで半年後に新聞にばんばん出て『あのときのあの人だぜ』みたいな」
ジョー・ストラマーに教わったパンク精神
ザ・クラッシュのジョー・ストラマーはロンドンの地下鉄のホームで偶然見かけたという 「向こうは僕のことは知らないですから『ジョーさんですよね? 写真を撮らせてくれませんか?』って声をかけたら同じ方向の電車に乗ることになって、撮らせてくれて。その後にドアが開いて降りていくとき『お前、撮りたいものは全部撮るんだぞ。それがパンクということだからな』って言ってくれたんです。その言葉の裏には『人に迷惑をかけない限りはけっして妥協するなよ。撮りたいものは撮って行けよ』って彼のパンク精神があるんだと思うんですね。僕がカメラじゃなくて楽器を持っていたとしたら『弾きたい曲を弾くんだぞ、それがパンクだぞ』って言っただろうし絵筆を持っていたら『描きたい絵を描けよ。それがパンクだ』と言ったと思うんです」 その言葉がすごく心に残り、ハービーさんは今も著書などにサインをするとき“stay punk”と書き添えるという。 (後編へ) (取材:志和浩司)