エルメス財団が職人技術や知識の次世代への継承を目指す「スキル・アカデミー」成果発表展を公開
建築壁面に点在する陶器でできたチューブ状の穴は、ワークショップで講師を務めた陶芸家・西條茜氏によるもの。「フンデルトヴァッサーが『第3の皮膚』と言ったように、住宅は構造的にも身体になぞらえられる。壁面には、体の入り口にも出口にも見えるような不思議な質感の焼き物のチューブを埋め込んだ。そこに鑑賞者が建築の内外から息や声を吹き込んだり、音を響かせたりすることで、内と外が繋がることをイメージした」と西條氏は語った。
建築の正面には、同じく西條氏がサウンド・アーティストと共に制作した陶器製の彫刻作品《ホムンクルス》が展示された。土器と同じ「手びねり」の技法で作られたものだ。「土の造形物・パフォーマー同士の身体・空間が音を介してつながっていく瞬間を作りたい」との発想で、水牛の角のような形状の先端にある穴に息を吹き込むと、法螺貝(ほらがい)のようなサウンドが鳴り響く。「焼き物は土には戻らない。『地球の一部を使ってものを作ること』の責任と、『ものを作りたい』という人間の欲求。アートにはエコロジーとの関係性をリアルに思い巡らせる側面がある」と西條氏は考察する。
建築の周囲には実をつけたミニトマトなどの野菜の鉢が吊るされたり、木製のベンチに埋め込まれたりしており、間近で土と植物が紡ぐ生命の時間を感じることができる。植物が植えられた土は現代美術家の保良雄が石巻から運んできたもの。壁沿いには「春のワークショップ」で参加者が手作りした縄文土器と、多摩ニュータウン遺跡群から出土した本物の縄文土器、エチオピアで今も作り続けられている土器が並ぶ。
「春のワークショップ」で学術的に観察された土壌動物は、別のかたちで提示された。彫刻家・井原宏蕗氏は、ミミズの糞塚に金彩を施されたジュエリー“jewelry from earth-gold ring”を制作し、井原氏は犬や鳩のふんから動物をかたちづくる彫刻を生み出した。また、メディアアーティストの三原聡一郎氏の装置で春から継続的に作られるコンポストは、土・生物・環境の循環を想起させた。