エルメス財団が職人技術や知識の次世代への継承を目指す「スキル・アカデミー」成果発表展を公開
今年3月に東京近郊で開催した、中高生向けの「春のワークショップ:土に学ぶ、五感で考える」にはインターネット公募で集まった約75名が参加。それぞれが「五感」――土に素肌で触れて感覚をひらく、その感触を詩やダンスで表現する、土の中の生態系やシステムを学ぶ、土を食材として味わう、縄文土器を手作りする、土の建築について学び、土壁づくりを実践する――を通して生物にとって最もプリミティブな存在の「土」について深掘りした。
「夏のオープンクラス」ではこの「春のワークショップ」で講師を務めた研究者やアーティストと共に、これらの体験と成果、土にまつわる学際的な知識とスキルを共有し、鑑賞者が土について学び、考え、新たな魅力を感じられる展示を作り上げた。中高生向けのワークショップを展示形式で一般公開するのは、エルメス財団にとって初の試みだ。
土の住居を手作りし、時間の経過を共にたどることで
サステナブルな視点を身につける
「夏のオープンクラス」は「春のワークショップの成果物と講師の作品」「ワークショップの学びを発展させた、新たなゲストを招いての展示物」という2要素で構成された。コンセプトは、土が素材から、人間の手でかたちになり、そして素材へ還るところまでを五感で体験し、味わうこと。会期を通して変化する学びの場で「土から離れた都市で暮らす人々に土を感じてほしい」と、説田氏は語る。
会場の中心には、建築史家であり建築家の藤森照信氏の監修のもと、土建築研究家の山田宮土理氏と左官職人の都倉達弥氏とともに、ワークショップ参加者が作り上げた「家としての建築」がたたずむ。鑑賞者は小さな扉から中に入ることもできる。人の手の痕跡があらわな文様状の壁面を、上から差し込む光が静かに照らす光景は、古代の祭壇を思わせる。
この建築について藤森氏は「土のみの建築には、異素材を組み合わせて作る建築にできる境目がないため、『目地』もできない。それは生物の細胞が境目なく内側から分裂していくことや、人間の身体や肌に似ている。今回作ったような泥だけで構成された建築は、世界でも事例が少ない。この建築の中に入ったときの、泥に包まれる感覚、泥の空間に光が落ちてくる感じを味わってもらいたい」と語った。