日本経済総予測2025 「日本経済が手本にすべきは日本サッカーの躍進だ」 宮川努・学習院大学経済学部教授インタビュー
◇一本足のアベノミクス ── その後、円高と東日本大震災(11年)を経て、12年末発足の安倍晋三政権下で「アベノミクス」が始まった。 ■1ドル=70円台の強烈な円高によって、日本企業の多くが海外への進出を決めた。福島第1原発事故によって原発の稼働も止まり、化石燃料の輸入も増えたことで、日本の貿易赤字が定着した。短期的には金融政策は効果があるので、アベノミクス初期に日銀の黒田東彦総裁による異次元緩和で、為替レートを円安方向にもっていったのはよかったと思う。しかし、一度海外に出た企業は、円安になっても戻ってこなかった。 ── 日本はバブル崩壊後、鉄鋼や造船、半導体などで世界一の座を滑り落ち、アベノミクス下でも日本の家電産業などが競争力を失っていった。 ■アベノミクスは金融政策の“一本足打法”で、構造改革は後回しだった。金利がゼロでいくらでもお金を使える状況は、企業経営者にとっては採算を取る工夫を必要としない環境だ。労働組合も雇用さえ維持されれば、賃上げはうるさく言わない。しかし、そうした環境では海外の企業と競争力で差が付く。中国や韓国の企業にどんどん抜かれていったのは当然だ。 ── 20年からの新型コロナウイルス禍が明けてみれば、インフレ率は日銀の目標とする2%を超えたが、(物価上昇分を差し引いた)実質賃金はマイナスが続き、個人消費や成長率も上向かない。 ■政府・日銀は2%インフレを達成すればすべて良くなると言っていたのに、政策への信頼が揺らいでいる。減税を求める世論も強いが、長期的に将来の所得が上がる予測が立たないと、所得の増加分は貯蓄に回るだけだ。日本はこのまま何もしなければ、80年前の状態に戻っていってしまうだろう。「闇バイト」で普通の民家に押し入る強盗事件など少し前までは考えられなかった。それほど世相がすさんできた感がある。 ── この先の日本経済に何が必要か。 ■やはり構造改革しかない。政府が何でも面倒をみるような「アマチュア資本主義」から脱し、市場機能を活用して資源を有効利用する「プロの資本主義」に転換することが必要だ。そして、デジタル化や人材などへの果敢な投資を通じて生産性を引き上げていく。さらに、これからの経済を引っ張っていく若い人たちのじゃまをしないことだ。日本のアニメが世界的なコンテンツとなったのは、何も政府が振興したからではない。