“宿題廃止”から1年半…「勉強しなくなる」は本当か?ある小学校の挑戦で起こった変化
毎日泣いていた子どもが「学校が楽しい」
当初複数の保護者から寄せられた「宿題をなくしたら勉強しなくなるのでは?」という懸念は杞憂(きゆう)でした。児童に実施したアンケートでは、家庭で勉強をしていない児童は1割未満。宿題を出さなかった子どもの数と同程度でした。 「宿題を忘れがちだった子どもが、10枚もの復習プリントを手にしていることもあれば、自分の好きなことを追究して学びを深めている子どもも見られます。自作の漢字字典を作っている子もいますよ」 やらされる宿題でないからこそ、子どもが持つ主体性が刺激されたのではないかと分析する浅井校長。特にうれしい変化だと話すのは、子どもの自尊心の回復を実感するケースだとか。 「宿題を提出できず毎日教卓の前で泣いていた男の子が、私に『学校が楽しい』と言いにきたんです。宿題ができないことで感じる周りへの負い目からも解放されたのでしょう」 そんな彼は、宿題に追われず、時間的にも精神的にも余裕ができたことで、好きな野球チームに入団。「海外で活躍したい」との目標を掲げ、英語の勉強にも興味を持ち始めているといいます。
宿題廃止で授業の質も変化
宿題廃止は、教師の授業の質をも変えつつあるといいます。 「宿題がないからこそ、授業を受けた児童の『もっと知りたい』という知的好奇心を刺激して、自ら学びに向かわせることが重要になります。子どもに『これはどういうことなんだろう?』と《?(クエスチョン)》を持たせられる授業をめざしています」 宿題廃止以前から学校全体で取り組んでいた授業改善の方向性が、宿題廃止を機により明確になりました。 「『もっと知りたい』という気持ちを刺激するために、教えるのではなく、考えさせる授業へと少しずつ進化しています。教師のスタンスも一方的に知識を詰め込むティーチングスタイルではなく、児童と一緒に悩んだり考えたりして対話しながら答えにたどりつく伴走型に変わりつつあります」 「こうだ」と教える授業でなく、「どうしてだろうね」と考えさせる授業は、雰囲気も柔らかくなるといいます。疑問に対し、思考や対話を重ね、答えを見つけていく学習を重ねることは、予測困難なこれからの時代を生き抜く力につながる。そう浅井校長は指摘します。