「FIREで人手不足」論から抜け落ちている重大側面とは、「人口減少でデフレ」がいつのまにか「人手不足でインフレ」に
以上の状況を整理すると、「人手不足によるインフレ」という考え方自体が、現在のインフレ環境で受け入れられやすい「ナラティブ」に過ぎないと言える。 言い換えると、「人手不足によるインフレ」ではなく、「インフレだから人手不足」と考えることもできる。 ■インフレが人手不足をクローズアップしている? むろん、「インフレだから人手不足」というのは経済メカニズム的にはありえない話だが、「インフレだから(下向きの人口動態の状態を)人手不足(と捉えて問題視しやすくなっている)」という可能性は十分にあるだろう。
例えば、Google Trendsで「人口動態」と「人手不足」の検索数を指数化すると、2014年頃までは「人口動態」の検索数が多かったが、最近では「人手不足」のほうが注目されている。 前述したように、いずれも「下向きの人口動態」という同じ現象を示しているのだが、人々の捉え方が変化している。 ここで、「人手不足」と「人口動態」の検索数の差を示すと、実際のインフレ率と連動していることがわかる。 「人口動態」の検索数自体はそれほど大きく変わっていないことを考慮すると、やはりそのときのインフレ(デフレ)の状況によって人々の捉え方が変化しているのだろう。
人口動態とインフレの関係がナラティブに過ぎない場合、円高など何らかの要因でインフレ局面が終わったときに、他の新しいナラティブが市民権を得て、世の中の見方が変わっていくという可能性がある。少なくとも、経済分析において「人手不足だからインフレ」というナラティブに依存し過ぎることは危険であると、筆者は考えている。 前述の議論でFIREの例を挙げたので、実際にFIREの増加によって需要側がどのように変化するのかを実際のデータを使って少し考察する。
今更ながら、FIRE(Financial Independence, Retire Early)とは? から確認すると、これは経済的に自立して、働かずに生きるライフスタイルのことであり、株式や不動産投資などの利回りなどの運用益をもとに生活をする働き方を指す。 例えば、1億円の資産を貯めて、配当利回りが4%だとすると、年間で400万円の運用益となり、2023年における給与所得者の平均給与である460万円(国税庁民間給与実態統計調査)と近くなるので、働かなくても生活が可能だと考えられる。