「FIREで人手不足」論から抜け落ちている重大側面とは、「人口減少でデフレ」がいつのまにか「人手不足でインフレ」に
■FIRE願望が日本経済をシュリンクさせる いずれにせよ、本気でFIREを目指すのであれば、相当程度、消費を切り詰める必要がある。なお、この計算は、利回りを4%と仮定し、ポートフォリオリバランス等によるキャピタルゲインは想定していない点には留意が必要である。 FIREを目指す人が増える社会は、明らかに需要が弱い社会と言え、心配するべきなのは「人手不足」によるインフレ高進ではなく、日本経済全体のパイの縮小ではないだろうか。
なお、日本の勤労者世帯の黒字率(貯蓄率)は2000年代半ばから上昇し、足元では40%近くになっている。いわゆる将来不安によって高まっているという見方が一般的だが、もしかするとFIREを目指して貯蓄を増やしている人がすでに増えているのかもしれない。 金融リテラシーを高めることで「貯蓄から投資へ」を進め、自助による将来不安の解消を進めるべきである――という方向自体に異論はあまりないだろう。しかし、人々がFIREを目指すことで「消費から投資へ」が進んでしまうと、日本経済を縮小させかねない点には注意が必要である。
末廣 徹 :大和証券 チーフエコノミスト