「FIREで人手不足」論から抜け落ちている重大側面とは、「人口減少でデフレ」がいつのまにか「人手不足でインフレ」に
■FIREで労働力ばかりでなく消費が減る もっとも、実際にFIREする人は運用益で生活をするため、少なくとも労働所得と金融所得の双方がある「FIRE前」と比べれば収入がガクッと落ちることが予想される。 実際に2019年における資産階級別の1カ月当たりの消費額をみると、いずれの資産階級においても、勤労者世帯に比べて無職世帯の消費額が低い傾向にある。とりわけ、資産規模が1億円以上の世帯においても、勤労者世帯と比べ、2割程度低い。
無職世帯には年金世帯が含まれており、年代による消費額の違いは割り引いてみる必要はあるが、金融所得に加えて労働所得もあるかどうかは、家計の消費にとって大きい。結論としては、FIREのタイミングで消費額は2割程度は落ちると考えてよいだろう。 したがって、FIREの増加がインフレ的かデフレ的かという判断は、この2割の消費減に対してFIREによる労働者の減少が大きいか小さいか、という需給バランスによる。
インフレ的かデフレ的かという問題はそのときの景気によるところも大きく、結論を出すことは困難だが、やはりFIREにおける供給能力の減少という面だけでなく需要減少の面にも目配りをする必要はありそうである。 FIREと個人消費(需要動向)を議論する場合、前述したFIRE後の消費額よりも「FIREを目指す過程における節約志向」のほうが大きいかもしれない。 最近では「NISA貧乏」という言葉も注目されているが、投資熱が高まり過ぎると「消費から投資へ」の動きによって個人消費が抑制される可能性がある 。仮に、多くの人がFIREを目指すような社会になる場合、節約志向の広がりは強力なものとなるだろう。
例えば、年収を平均値の460万円として、そこから一定割合を投資に回した場合の資産の変化をシミュレーションすると、22歳から投資をはじめ、年収の20%を投資に充てた場合、45歳時点で資産規模は約3600万円となった。前述したように、運用益でほぼ日本の平均年収を確保できる資産額が1億円程度であることを考えると、この程度の資産規模ではFIRE生活は難しいだろう。 逆に、45歳時点で1億円を上回るために必要な投資額を逆算すると、年収の56%を投資に回さなければならないという結果となる。今回は年収を460万円と仮定したが、賃金カーブは右上がりであり、若いうちは高水準の貯蓄は難しいことを考慮すると、投資に回すべき比率はさらに高くする必要があるだろう。