遺伝子組み換え困難な細菌を改変、バイオものづくり期待 長浜バイオ大など
この遺伝子欠損Tol5株では、DNAの断片を連結して組み換えDNAを作る作業を、高価な薬品が必要な試験管内だけでなく、細胞内でも行うことに成功した。さらに、別のアシネトバクター属細菌を使って開発した遺伝子ツール(プラスミドDNA)を電気パルスで導入し、標的の遺伝子の塩基配列を書き換えることもできた。細菌ごとのオーダーメードでなく、別の細菌で作ったツールを使えることを示した。
自然界の細菌はさまざまなウイルスにさらされているが、それらの異物のDNAを排除する仕組みにより感染を免れている。細菌にとっては、人の手で導入される組み換えDNAも異物であり、同様に排除して身を守っているのだった。こうした防御機構は多くの細菌が持っており、これを壊す今回の手法を応用できれば、バイオものづくりの可能性が広がりそうだ。
研究グループによると、遺伝子組み換え困難の原因が防御機構にあるとの見方は従来あったが、科学的に裏付けたのは初めて。長浜バイオ大学バイオサイエンス学部フロンティアバイオサイエンス学科の石川聖人(まさひと)准教授(細菌分子遺伝学、生物工学)は「微生物を“飼いならす”ための大きな一歩になった。遺伝子組み換えは、人に役立つものを生み出す品種改良。一方で細菌の立場からすれば、ウイルスに感染させられることであり、身を守ろうとするのは当然だ。この防御機構を壊せば組み換えやすくなるのではと、人類がコロナのウイルスから逃れようとしている時期に着眼した。今後はファージ(細菌に感染するウイルス)の側の観点に立って研究してみたい」と話している。
成果は米微生物学会誌「アプライド・エンバイロメンタル・マイクロバイオロジー」に5月9日に掲載され、長浜バイオ大学などが同10日発表した。研究は科学技術振興機構(JST)戦略的創造研究推進事業の支援を受けた。