開発責任者が明かす「鈴鹿8耐、3連覇を達成したHRCファクトリーの真実:マシン編」24年型CBR1000RR-R SP
2024年型は旋回性重視
2024年型のフレームは軽量化と同時に、従来比で横剛性-17%、ねじれ剛性-15%と、剛性を落としている。その狙いは、しなやかさを出して旋回性を向上させることだ。その背景には、SKBで使用する(剛性が低めな)ピレリタイヤへの対応もあるのだろう。 「メディアでは『8耐仕様HRCファクトリーマシンは曲がる』というように書かれてもいますが、私たちとしては決して曲がるとは思っておらず、もっと旋回性を出さなくてはいけないと考えています。(STDベース)のフレームですが、補強は可能です」 フレームは、スーパーバイク全般ではガセットやチューブで補強できる(逆に取り去ることは不可)。フレーム補強はもちろん行っていて、高橋 巧選手たちが全日本で使用するフレームとは別物の、BSタイヤの剛性に対応した8耐専用となっている。ちなみに、全日本にはHRCファクトリーは参戦していないので、CBR勢は原則的にHRCキット車での参戦となっている。 これに加えてフォーミュラEWCでは、ステアリングヘッドはベアリングシートを挿入してベアリングで前後プラスマイナス6mmの位置変更が可能、スイングアームピボットは前後にプラスマイナス5mmの位置変更が可能だ。いずれも必要な溶接・切削加工が許可される。 「ステアリングヘッドでは本当にほんの少しですが、キャスターを変更しています。スイングアームピボットは内側にカラーを入れて、その偏心でピボット位置を少し上にしています(スイングアームの垂れ角が付く方向)。前後位置は変えていません。スングアーム長はSTDより長くもなく、短くもなく、です」 つまり、HRCファクトリーの8耐仕様はSTDのキャスター角24°07′よりほんの少し変更していて、ホイールベースは1,455mmとほとんど変わらない。スイングアームはHRCキット車のものと似ているが、こちらはファクトリースペシャルだ(BSタイヤに対応するため剛性が異なっている)。 「スイングアームは削り出し加工ではなく、プレス加工です。削り出しにしたからといって、性能が劇的に上がるのかと言われれば……あまり変わりません。むしろ、あそこまで薄く削っていくと歪んでしまうので、そこで歪み矯正を入ると精度保証や手間が……」 削り出し加工なら自由に形状を選べるが、とてつもなく高価になる。形状がある程度決まっていれば、プレス材の溶接で充分なのだ。スイングアーム形状で特徴的なのは、ブレーキディスクを大きくオフセットして、幅広くなっていることだ。これは、タイヤ交換時に有利になるが剛性的には不利になる。実は長年この形状を採用している。 「やはり鈴鹿8耐の場合は、ピット作業の所用時間が重要ですから」 ピット作業で1秒ロスをして、それをコース上で取り戻すのはライダーの大きな負担になる。また、7~8回ピットなら7~8秒のタイムロスになる。鈴鹿8耐では勝負を左右するほどのロスだ。 「結果は8耐3連覇ですが『あの時、ああだったら負けていた』ということもあるんです。今年でいったら、SC(セーフティカー)が入ってリードがなくなってしまうと思ったら、実際は一瞬しか入らなくて……それに40秒リードしていても、最後にペナルティがあってその差は約8秒になってしまったわけですから。鈴鹿8耐は、本当に何が起こるかわからないのです」 「2024年型HRCファクトリーマシンでは、まだまだやり残しことがあります。エンジンも車体も、まだ伸びしろがあると思っています」 レポート●石橋知也 写真●柴田直行 編集●上野茂岐