開発責任者が明かす「鈴鹿8耐、3連覇を達成したHRCファクトリーの真実:マシン編」24年型CBR1000RR-R SP
規則の最低重量より軽い仕上がり!?
2024年型のSTDのフレームは、従来と比較して960gの軽量化を果たしている(最低肉厚は2mm)。また、ハンガーボルトもボルト長の短縮と締結構造の変更(エンジン締結は6ヵ所)で140gの軽量化。加えてエンジン単体で720g量化しており、トータルで約1.8kg軽くなっている。 ただ、軽量化と言っても、フォーミュラEWCの最低重量は170kg(フューエルタンクと内容物=燃料と燃料ポンプを除く)。フリー走行・予選中にピットレーンで計測する最低重量は177kg(フューエルタンクや内容物を含む)だから、単純にはいかない。 「正直に申しますと、出来上がったマシンはレギュレーションの最低重量より軽くなっていますので、最終的にはダミーウェイト(バラスト)を搭載して調整しています。それが何kgあるのかは明かせませんが、けっこう積んでいます。ダミーウェイトは通常、ステンレスですがタングステンも使います。ただし、タングステンは高価な上に難削材ですから、コストも時間もかかる……」 だから、ウェイトはステンレスをメインにして、ここぞという部分にタングステンを使うということになる。比重ではステンレスが7.7~7.9、タングステンは19.3で、一般的な鉄が7.8だ。マシンを規定より軽く作っておいて、慣性モーメントが小さくかつ低重心になる位置にダミーウェイトを配置すればかなり有効だ。しかも、取り付ける位置を数ヵ所に分けることもできる。このように、ダミーウェイトを積極的に使えるから、マシンを軽く仕上げておくことは有利だ。 「ウェイトの取り付け箇所は、フレームのロアークロス部分(スイングアームピボット下を左右につなぐ個所)の比較的重心に近いところに積んでいます。レギュレーションでM8(8mmネジ)2本以上で締め付けなければならないので、キチンと取り付けています。車検の際には、どこにダミーウェイトを積んでいるかを申請しなくてはいけないので、隠しようがありません(笑)」 「運動性能は、物理的な諸元で決まってしまいます。我々のやることは重心をどこに置くか、慣性モーメントをいかに小さくするか、いかに軽く作るかです。重心をどこに置くかはまず大物部品の配置です。ECUやバッテーをどこに置くか、ハーネス(配線)をどこに通すかです。ECUも1㎏ぐらいあるのでフューエルタンクの下に配置しています。バッテリーはエンジン左サイドのシリンダー後方にあり、CFRPでカバーされています」 「慣性モーメントを小さくするには、とにかく重心から遠いところに重い物を置かないことです。そして、単純に重量が軽くなれば慣性モーメントを小さくできるので、軽量化には徹底して取り組んでいます」 バッテリーは、STDのCBRと同じエリーパワー製リン酸鉄リチウムバッテリー。そしてECUはMotoGPと同じマレリ製だ。 「EWCではECUを自由に選べますが、マレリ製を使っています。マレリ製にすればMotoGPでも使っていますので、ホンダとしては使いやすい(ソフトはホンダのオリジナル)。ただMotoGP用とは別物です。ECUは、求められる機能、性能の中から最適なものを選択しています」