「トルコ」と同じ「4枚のプレートがせめぎあう場所」に位置する「日本」…その上にそびえる「富士山」噴火の危険性は?
引き裂かれるフィリピン海プレート
ところで、日本列島の太平洋側では前述のように、海側のフィリピン海プレートが陸側の北米プレートとユーラシアプレートの下に沈み込んでいる。その海底では、西から東へ順に、南海トラフ・駿河トラフ・相模トラフという凹地が形成されている。なお「トラフ」とは一般に、海溝よりも浅くて幅広い海底の凹地を指す。 富士山の位置は、駿河トラフと相模トラフが陸上へ延長した線の交点にあたる。すなわち富士山の直下では、フィリピン海プレートがその西側では駿河トラフから北西方へユーラシアプレートに沈み込み、東側では相模トラフから南東方へ北米プレートに沈み込んでいる(なおフィリピン海プレートの西方部分は東海スラブ、また東方部分は関東スラブとも呼ばれる)。 こうしてフィリピン海プレートは、2つの陸のプレートの下に沈み込むことによって、東西に引っ張られる力が働いている。つまり地下深部では、沈み込むにしたがって東西に引き裂かれつつあるのだ。 プレートのさらに下には、マントルがある。マグマはここでつくられる。地下深くで生産された大量のマグマは、フィリピン海プレートに裂け目ができることで上昇しやすくなっている。そのため富士山では、長期間にわたってマグマが噴出しやすい状況が続いている。 富士山は日本列島で最大の火山だが、海のプレートをつくる玄武岩質のマグマが大量に噴き出ることで成長してきた。その理由の1つは、海のプレートが引き裂かれる特異な場所にあってマグマが容易に上昇したためと考えられているのだ。これが富士山を地理的に見たときのきわめて大きな特徴となっている。
富士山の下から、富士山が出てきた!
さて、では富士山のどこからマグマが出るのかを考えるためには、噴火の履歴をくわしく見ていくとよい。そのために、今度は富士山の過去の歴史を振り返ってみよう。 富士山は特異な生い立ちをもっている。 どの火山でもそれぞれ特徴はあるものなのだが、とくに巨大な山体をもつ富士山は、実に意外な構造を秘めていることが、近年の地質調査であらためてわかったのである。 東京大学地震研究所は、富士山北東側の五合目にある小御岳の周辺で坑井による掘削調査(ボーリング)を行った。5ヵ所で最深650メートルまで掘り進み、地下の状態を調べるために使われる「コア」と呼ばれる円柱状にくりぬいた岩石を、地下深部から引き上げた。その岩石をくわしく調べたところ、これまで富士山にはなかった種類の岩石が見つかったのである。 富士山には長い噴火の歴史がある。約10万年前から現在まで、数百年おきに大きな噴火を繰り返して現在の富士山が形成されたのであり、最初から現在のような形ではなかった。 従来の調査で、富士山の活動は約1万年前を境に「古富士火山」と「新富士火山」に分けられ、現在の富士山は新富士火山で、その下に古富士火山が埋まっていることがわかっていた。この2つの山体は、いずれも玄武岩からできている。 さらに1930年代に、古富士火山の下には別の山体があることがわかった。小御岳神社の付近の地表には、富士山では珍しい安山岩の溶岩が露出していることを、東京大学地震研究所で長年富士山の研究をしていた津屋弘逵教授が発見したのだ。 戦前戦後にかけて富士山をくまなく歩いて調査し、富士山の全域にわたる地質図を最初に作った津屋教授は、あるとき、小御岳神社の脇に玄武岩よりもやや色の薄い灰色の溶岩を見つけた。彼は古富士火山をつくる前に形成されていた火山体の一部と判断して、これを「小御岳火山」と命名した。