よくわかる男性育休 取得率向上させたい企業が陥る落とし穴とは?
男性育休は会社の働き方を見直す「起爆剤」
――企業でのセミナー開催などを通じた手応えはどうですか。 「私が男性の育休推進の活動を始めたときは、取得率は1.23%でした。それが5%、10%と上がっていき、ついに30%を超えました。この数字の跳ね上がり方は改正育児・介護休業法が効いているのは間違いありません。けれど取得率が上がらない会社もあります。数字だけを見て、法令で課された最低限のことだけ対応する『小手先対応』では、たとえ育休取得率が上がっても元に戻ってしまう」 「取得率が10%から30%に上がって喜んでいても、取得率の公表企業なら40%を超えています。50%を超えても、取得期間が数日でいいのか。それが1カ月になればいいというわけでもありません。取得日数の中央値が1カ月の企業は1カ月の取得を推奨していることが多く、長く取りたい人にも、短く取りたい人にも、合っていない可能性がある。本人の希望通りに休業を取得できているのか、実態を調べて対応していかなくてはなりません」 「希望通り育休を取得すると、人手が足りなくなって現場が悲鳴を上げるなら、働き方改革の問題です。長時間労働を是正し、柔軟な勤務時間を実現し、属人化した仕事の進め方をやめる。男性の育休取得は、これまでの業務フローや働き方を見直す起爆剤になります。政府が2023年12月に閣議決定した、少子化対策の施策を盛り込んだ『こども未来戦略』でも、男性育休は子どもが生まれるためではなく、そのために社会全体の構造や意識を変えるものとして位置付けられているんです」
育休も「推し活」のための休暇も取れる職場に
――塚越さんは、イクボスを「ダイバーシティーマネジメントができるボス」と定義しています。 「私が管理職研修で伝えていることは『イクボスは子育てだけに対応するのではだめ』ということです。上司は職場のメンバーがそれぞれ大事にしていることを分かっていて、それを尊重できる職場でなければいけません。『推し活』をするための休暇も、育休も、本人にとっての価値に優劣はないはずです。結婚や出産をする人が多数派ではなくなりつつあるなかで、子どもの体調不良などで簡単に仕事を休めるように見えることが『子持ち様』と特権的に感じられてしまう。『彼も休めるなら君も休めるね』という職場にしていくことが重要です」 「改正法はいい内容ですが、まだまだ知らない人が多い印象です。テレビや新聞に加え、X(旧ツイッター)やティックトックなどでも発信し、ユーチューバーなど影響力がある人たちに、無関心層にも分かりやすく伝えてもらうことも考えています。現在、自分が講演やセミナーなどで年間5万人に話をしているとして、10年でも50万人にしか伝えられない。私が社会課題解決の活動に携わるようになったのは、社会をより良くしていかないと、自分の子どもを守れないと思ったことがきっかけでした。私の子どもが親になったときに同じ苦労をしないように、スピード感をもって活動していきたいと思っています」 塚越学(つかごし・まなぶ) 公認会計士として監査法人トーマツ(現・有限責任監査法人トーマツ)に勤務し監査業務に携わる一方、「人財育成」などのセミナー講師を担当。2011年、育児と介護の同時経験から、日本におけるワークライフバランス推進を本業にすることを決意し、東レ経営研究所ダイバーシティ&ワークライフバランス推進部に転職。2023年7月に独立し現職。内閣府男女共同参画推進連携会議議員。NPO法人ファザーリング・ジャパン副代表理事。「男性育休義務化の基礎知識 男性育休の教科書」(日経BP)監修などを手掛ける。 (ライター 国分瑠衣子)