メカに置き換えていったら、残ったのは「脳と脊髄だけ」だった…じつは、軍事目的で、マジに研究が進む「サイボーグ」兵器
サイボーグ技術は何のためか
SFでは、それは「超人的な身体能力」を獲得するためのもの、と位置づけられることが多い。そのために、人体の一部、または全部を、強力な人工のメカニズムに置き換えるタイプのサイボーグだ。そうすることで、通常の人類よりはるかに強力な身体能力や、特殊環境における耐久性を獲得できる。つまり「超人」になれる。そういう点でイマジネーションが刺激されて、魅力的なストーリーもつくれるのだろう。 しかし、リアルな社会でまず考えられるサイボーグの目的は、医療である。事故や病気で失われた四肢や、臓器・感覚器などの機能を代替・回復させるためにもちいるもので、さきほど挙げた高度なメカニズムを備えた筋電義手や義肢、人工臓器(人工内耳、人工心臓など)などがある。 だが、超人的な能力を目的とするものも、医療を目的とするものも、技術的には同一線上にあると考えられるため、ここでは同じサイボーグとして語っていく。
「埋め込み型サイボーグ」の実現性
まず、人体に直接、メカニズムを埋め込むことはせず、スーツのようなものをまとい、それにモーターやアクチュエーター(人工筋肉)のような動力源を内蔵して駆動するものがある。 ロバート・A・ハインラインによる古典的SFの名作『宇宙の戦士』(1959年)には、「パワードスーツ」とよばれる兵器が登場する。 日本のアニメ作品『機動戦士ガンダム』(1979年からテレビ放映開始)の「元ネタ」となったといわれているものだ(ただし、ストーリーに関しては同じハインラインの作品『月は無慈悲な夜の女王』が、ガンダムのルーツかもしれない)。このパワードスーツは、「装甲型サイボーグ」と言ってもよいだろう。 しかし、SFで描かれる本来のサイボーグ技術は「埋め込み型」というイメージが強いので、その実現性をみていこう(「装甲型サイボーグ」についての考察は、『SF脳とリアル脳 どこまで可能か、なぜ不可能なのか』で行なっているので、ぜ日ご一読願いたい)。 古典的なSFによく登場するのはなんと言っても、体の一部または全部を人工的なメカニズムに置き換える「埋め込み型サイボーグ」だ。しかし、じつはリアルな現実世界においても、こうしたサイボーグの開発が進められている。 たとえば米国のDARPA(ダーパ)などでは、「埋め込み型」を軍事目的に利用する研究が行われている。兵士の身体能力を大きく強化するという目的のほかに、戦闘において外傷を負った兵士にサイボーグ手術を行うことで、すばやく戦場復帰させることも想定されている。 『攻殻機動隊』や『銃夢(ガンム・GUNNM)』などの人気SF漫画には、中枢神経系(脳と脊髄)以外をすべて人工的なものに置き換えたサイボーグが登場する。もしかしたら、脳を搭載する「入れ物」となるメカニズムは、なにも人体と同様の形状をしている必要はないのかもしれない。軍事利用ということでいえば、戦闘機や戦車のような兵器に、脳を搭載して動かすということも想定できる。 では、はたしてこうしたことは実際に可能なのか、考えてみよう。 まず、四肢の機能を機械に代替させることはできるのだろうか。 骨格筋の活動によって発する筋電を検知して、モーターやアクチュエーターを動かす信号として利用することは、比較的容易だろう。しかし、そのためには当然ながら、筋肉を含む四肢が残存していなければならないが、「脳と脊髄以外の肉体を機械化する」という前提であれば、筋肉は残っていない。 また、医療目的で四肢の代替として人工的なメカニズムを装備するのであれば、四肢を失ってしまっている場合も多い。 すると、ほかになんらかの方法で、運動のときに出力される信号を読み取る必要が出てくるわけだが、そのようなことは可能だろうか? SF脳とリアル脳 どこまで可能か、なぜ不可能なのか
櫻井 武(医学博士・筑波大学 国際統合睡眠医科学研究機構 副機構長)
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