黒海発「イギリス・海の力 vs ロシア・陸の力」が日本の近代史に及ぼした影響とは?
日露戦争の背景としての「アングロサクソン軍事力+ユダヤ資本力」
香港でアヘンの利権をにぎっていたジャーディン・マセソン商会は、伊藤博文や井上馨など「長州ファイブ」と呼ばれる有能な若者たちをイギリスに送って学ばせる。また長崎のグラバー邸で知られるトーマス・グラバーは、マセソンの代理人で、坂本龍馬をつうじて、薩長に武器(主として銃)を調達した。明治維新の裏には明らかにイギリスの力が働いていた。 もちろん維新以後の文明開化を主導したのもイギリスである。英国で学んだ長州ファイブはそれぞれ要職につき、工部大学校(のちの東京帝国大学工学部)で建築を教えたのも、イギリスからやってきたジョサイア・コンドルであり、やがて東京駅を設計する辰野金吾はその第1期生だ。 そして日英同盟(1902年)が、両国ともにロシアを意識して結ばれたことは明らかである。のちの日米安保条約がソビエトを意識して結ばれたのと似ている。そう考えれば日露戦争は、単に日本とロシアの衝突であるばかりではなく、「イギリスあるいはアングロサクソン国家 vs ロシア」の、地球をひとまわりするような地政の力学が絡んでいるのだ。 日露戦争で日本に資金を提供したのは、ナポレオン戦争以来、戦争のたびに財力を蓄えてきたロスチャイルドとも関係する、シフ財閥というアメリカのユダヤ資本である。もちろん本記事は「世界を陰で支配しているのはユダヤだ」というような陰謀論に加担するものではないが、19世紀以後、アングロサクソンの軍事力とユダヤの金融資本力の結びつきが、大きな力として世界の歴史を動かしていたのは事実であろう。それが資本主義というものであり、帝国主義というものであり、その組み合わせである。
海の力と陸の力・交流と衝突
経済史家のイマニュエル・ウォーラーステインがとなえた「世界システム」が16世紀に成立するまでは、ユーラシアの帯における「陸の力」(オスマン帝国、ムガール帝国、中国の明王朝など内陸国)が圧倒的に優勢であり、中央アジアの遊牧民がそれらを結びつける文化媒介者としての役割を果たしていた。 しかし16世紀以後、次第に「海の力」が強くなる。その初期の覇者はスペインで、その権力中心としてのハプスブルク家は、欧州の陸の覇者でもあったが、次に覇者となったのはスペインの無敵艦隊を破ったイギリスで、これは徹底した海洋国であった。やがてその覇権はアメリカに移るが、アメリカは「海の力」であるとともに「空の力」(航空機と電子情報)の覇者ともなっていく。 つまり「世界システム」とは、人類の都市化が「ユーラシアの帯」を超えるエネルギーを獲得したということであり、その媒介としてのフィールドが、古代の地中海から、中世の中央アジア大草原を経て、近代の大西洋に始まる外洋に移行したということである。南北アメリカ大陸も、オセアニアも、サハラ以南のアフリカも、その「世界システム」という、ひとつの都市化のエネルギーに巻き込まれるのだ。