“先輩と妻”に救われたFW「やっていける気せんわ…」「日本、帰んなよ!」ドイツで町野修斗が愛されるまで「自分の知っているドイツ語を」
“もう1人の日本人”が加入して伝わった町野の個性
さらに明るい兆しが訪れたのは2024年1月、シーズンの後半戦に入るタイミングからだった。 トップチームの分析スタッフとして、佐藤孝大が加入したことだ。筑波大出身の佐藤は、日本の年代別代表やA代表の分析スタッフとして働いており、町野もA代表でともに戦った経験があった。 キールのマルセル・ラップ監督は、今シーズンのブンデスリーガでもわずか1勝しかしていないのに、ビルト紙による週間ベストイレブンと並ぶベスト監督に2度も選ばれている戦術家だ。そのため、攻撃での決まり事やルールが細かい。実際、必要に応じて、佐藤が日本語で戦術面の細かいフォローアップをしてくれたのも大きな後押しとなった。 それだけではなかった。 佐藤が分析スタッフらしく、丁寧に仕事をしていくタイプだったことが、幸いしたのだ。 「うちにはもともと、分析専属のスタッフが1人しかいなかったのでチームの戦力としてもプラスでした。ただ、タカさん(佐藤)は人間的に非常に素晴らしい方で、みんなに好かれているんです。そして、タカさんがチームに溶け込んでいくにつれて、みんなが僕とタカさんとを比べるようになって。タカさんはみんなにとって『ザ・日本人』という感じだったようですが……」
「オマエは本当に日本で育ったのか? 違うだろ!」
それに引き換え、豪快なストライカーながら、おっとりしたところもある町野には、みんなから笑顔でツッコミが入るようになった。 「オマエは本当に日本で育ったのか? 違うだろ!!」 実は町野は海外でやっていくのにふさわしいキャラクターである。そのことを周囲が理解してくれた。そこからはもう、悩まなかった。 2月以降の15試合で、スタメンを外れたのは第32節と昇格決定後の最終節だけ。その間に記録した3ゴール4アシストを含めて、町野にとっては小さくない意味を持っていた。
僕はドイツ語話せません! でも…
だから、クラブ史上初めての1部昇格を祝う記念パーティでの町野は心から喜べたのかもしれない。 あの日、マイクを握った町野は街の主役になった。 「キャプテンのルイス・ホルトビー(元ドイツ代表で内田篤人のシャルケ時代の同僚)などが話をしていき、話し終わると、誰かにマイクを渡す感じだったんです。監督が話し終わると、僕にマイクを渡してきたので、正直ビックリして。窮地に立たされ『何をしゃべろう? 』ととっさに考え、あのフレーズが出てきました。自分の知っているドイツ語を最大限使った感じで……」 〈Hallo! Ich spreche nicht Deutsch. Aber egal!! Holstein Kiel!! ! (コール&レスポンスを挟んでから) Holstein Kiel!! ! 〉 日本語に訳すと、こうなる。 「こんにちはー! 僕はドイツ語、話せません。でも、そんなの関係ねぇ!! ホルシュタイン・キール!! ! ホルシュタイン・キール!! !」 まるで、“本家”の小島よしおを凌駕するようなマイクパフォーマンスだった。ただ、町野はこう釘をさす。 「SNSなどで『すごいコミュ力だ!! 』みたいに言われましたけど、あの状況やったら、やるしかなかった。『あまりすごくないよ』というのは伝えたいです」
余裕のなさは、過去のものになったのかもしれない
第1回で紹介したコスタリカ戦の翌日に声を出した瞬間についても、こう振り返っている。 「アップが終わってからの本格的な練習に入っていくってなると、僕はあまり話さなくなるんです。湘南のときから、そういう(戦術面の)練習になると集中してしまい、話している余裕がなかったりもしていて」 ただ、町野の“余裕のなさ”も過去のものになったのかもしれない。 その理由とは……。実は、今シーズンに入ってから町野がピッチ上で日に日に存在感を増している秘密とも関係している。 〈つづく〉
(「核心にシュートを!」ミムラユウスケ = 文)
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