なぜ久保建英は待望の代表初ゴールにも笑わなかったのか…W杯当落線上にいる天才の初得点の意義
18歳5日でA代表デビューを果たした久保は、金田喜稔が持つ19歳119日の日本代表歴代最年少ゴール更新がかかる代表初ゴールを、いつ決めるのかと注目されてきた。しかし、2020年はコロナ禍で代表活動そのものが制限され、昨年の前半は自国開催の東京五輪に臨むU-24代表に専念。その間に20歳になった。 3シーズン目を迎えたラ・リーガ1部でも、復帰したマジョルカで耳目を集める数字を残せなかった。2年前には3000万ユーロ(約42億3800万円)をつけた自身の市場価格も、最新の数字で750万ユーロ(約10億6000万円)へ大暴落した。 新シーズンへ向けた動きがニュースの中心となるスペインのメディアは久保に関して、保有権を持つレアル・マドリードにはこのオフも復帰できないと断言。なかには「いいオファーが届けば売却もありうる」とまで報じたものもあった。 久保自身は自問自答の中身に関して「それはちょっと企業秘密でお願いします」と笑顔を介して言及を避けた。ただ、周囲から寄せられるさまざまな期待も、メディアが算出する市場価値も、そしてレアル・マドリードの動向も久保自身はコントロールできない。そうした結論に達すれば「軽くなった」という意味もわかる。 インサイドハーフで先発したガーナ戦では、前半開始早々に相手の激しいタックルを足に受けて苦悶の表情を浮かべ、治療のために試合が中断された。 「交代しようか悩みましたけど、ここで代わったらもう(チャンスは)ないと思って」 DF山根視来(28、川崎フロンターレ)のゴールで先制し、その山根のミスから追いつかれ、三笘のゴールで勝ち越して迎えたハーフタイム。鎌田から「もっとペナルティーエリアのなかへ入っていけ」とアドバイスをもらって我に返った。 「堂安選手がちょっと中に入る感じだったので、僕はちょっと遠慮していましたけど、その通りだなと思って。後半は特に左サイドにボールがあるときは積極的に、相手に気づかれないように2列目からの飛び出していく形を狙っていました」 試合に臨む上での理想的なメンタル状態。足の痛みを介して強まったカタールワールドカップへ向けたサバイバル感。そして、プレーのフィーリングが合う鎌田の助言。これらが絡み合った末に生まれた初ゴールを、久保はあらためてこう位置づけた。 「みなさんからしたら『もっと早く決めるチャンスがあっただろう』となると思う。ここから先、終わるときまでにいっぱい取れていればいい。とりあえずはゼロと言われることはなくなったので、ここからどんどん追いつけ、追い越せでいきたい」 後半40分からは3-4-2-1へスイッチし、南野拓実(27、リバプール)とダブルシャドーを形勢。フル出場した久保を、森保監督はゴール以外の部分でも評価している。 「パラグアイ戦では1対1の場面でなかなか強度を出せず、こぼれ球の反応にも遅れ気味だったが、今日は自分の責任で相手に食らいつき、後手を踏んでもしぶとく食らいついていた。そうしたトライはすごくよかったし、自分に自分でプレッシャーをかけながら戦っているところのメンタルが十分に出たのかなと思っている」 何とか自分の力で、と焦りまくっていた久保が、三笘をはじめとする周囲との連携連動でゴールをもぎ取った。オンライン会見では「たかが1点で喜ばずに。まあ嬉しいですけど、ここからがスタートなので」と不敵な表情も見せた。さまざまな呪縛から解き放たれた後に残ったのは、どん底の状態を脱し、飛躍へと転じそうな予感だった。 (文責・藤江直人/スポーツライター)