天理市が「保護者対応窓口」を新設した深刻な背景 教職員77.5%「保護者対応に負担を感じている」
疲弊した学校の現状に危機感を抱いた市長
教員の働き方改革の大きな壁となっている、保護者対応。文部科学省では、過剰な苦情や要求に対応するため、「学校問題解決支援コーディネーター」を中心とした支援体制の仕組みづくりを進めている。こうした中、今年4月から保護者対応窓口「ほっとステーション」を開設したのが奈良県天理市だ。どのような現状認識の下、いち早く手を打つことになったのか。今回の取り組みをリードした天理市長の並河健氏と同教育長の伊勢和彦氏に聞いた。 【図で見る】天理市の保護者専用窓口はどのような体制で運営されているのか? 今年4月に設置された天理市の子育て応援・相談センター「ほっとステーション」は、市長の危機感によって生まれた。 現在、全国で精神疾患によって休職に追い込まれる教職員は増加傾向にある。13の公立校(小学校9校、中学校4校)がある天理市においても、昨年の1年間だけで6名が退職、8名が休職し、校長・教頭など管理職も確保できない状況にあった。 天理市長の並河健氏は、地域連携など改革の提案を教育現場に伝えていたが、「余裕がない」「疲弊している」といった声しか戻ってこない。幼稚園や保育所も、同様の状況にあった。並河氏は「行政の立場からあまり首を突っ込むわけにはいかないと思っていたが、もう看過できない」と感じたという。 「管理職を確保できない背景を探ってみると、教職員があえて昇進試験を受けないからだということがわかりました。荷が重い管理職になりたくないという教員が増えてしまったのです。教職員志望者も教育実習で疲弊した現場を目の当たりにし、進路を民間に切り替える学生が多くなっている。そんな現状に危機感を抱きました」(並河氏) そこで天理市は、市内すべての学校の教職員と幼稚園・保育所・こども園の職員らにアンケートを実施。結果、学校教職員の77.5%と園・所職員の72%が「日常業務で保護者対応を負担に感じている」と回答した。さらにいずれも約7割が「過去に保護者から納得のいかない理不尽なクレームを受けたことがある」と回答、学校教職員の25.8%と園・所職員の19%が「過去に保護者からの理不尽なクレームの心労により、1日以上休んだことがある、または同等以上に業務に支障が出た」と回答するなど深刻な状況が浮き彫りとなった。 「本市の山間部の学校では1クラス10人前後しかいませんが、保護者対応の負担は学級人数に関係ないんですよね。課題を抱えるお子さんやご家庭があれば、先生はその対応で疲弊し倒れてしまうことはあるのです。最近は働いているご家庭が多く、保護者の要望に個別対応しようとすれば夜の7~8時に呼び出されて残業時間が増えてしまう。そのまま日付が変わるまで教員が叱責されるケースも珍しくないことがわかりました」(並河氏) 年々保護者の要求は厳しくなっており、子どもへの悪影響も懸念された。過度な要求に対して教職員が我慢をして頭を下げた結果、子どもの口から「うちの親が言えば、学校は何でも聞いてくれる」「先生を辞めさせろ」といった発言が飛び出すことがあったのだ。 こうした現状を改善するために、天理市は保護者対応の専用窓口として「ほっとステーション」の設置に至った。