天理市が「保護者対応窓口」を新設した深刻な背景 教職員77.5%「保護者対応に負担を感じている」
小中学校「13校のうち11校」の残業時間が減少
ちょうど文科省も、保護者や地域からの過剰な苦情や要求が学校運営上の大きな課題になっているとして、学校管理職OBなどを活用して学校問題解決支援コーディネーターを教育委員会などに配置する体制づくりを構想していたところだった。こうしたタイミングも合い、天理市のほっとステーションは、今年度の文科省「行政による学校問題解決のための支援体制の構築に向けたモデル事業」に採択されている。 「本市が初と言われているのが、学校や園への加配ではなく、専門部隊を設けた点。保護者の要望や苦情はまず市のほっとステーションで対応するようにしたのです」と、並河氏は言う。 現在、校長や園長を経験した退職者らが務める相談員15名と、5名の心理士(師)が、ローテーションで相談に対応する。過度な要求や攻撃から教職員を守るため、ほっとステーション専属の顧問弁護士も揃えた。 基本的に相談窓口では、電話、メール、来所などを通じて、相談員と心理士(師)がペアで対応。家庭ごとにカルテを作って事案の全体像を整理して見立て(その子どもにとってどんな手立てが必要であるかの具体的な見通し)を行い、保護者に説明する。必要に応じて教育総合センターや福祉部門などと連携して子どもや保護者をサポートし、子どもへの丁寧な対応が必要な場合は学校現場と情報を共有し対応を講じていく。市長と教育長もすべての事案を把握し、日々サポートを行っているという。 「ほっとステーションが橋渡しとなり、市全体で横断的に対応している点も本市の特徴です。例えばいじめや特性への対応については、家庭や子どものプロファイリングがないまま表面的な対応をしても、かえってこじれることが多い。担任から見えていることのみで判断せず、生い立ちや家庭環境なども含めて状況を把握し、何が不安やトラブルの要因かを分析する必要があります。そのほか、学校と学童での過ごし方や就学前からのコミュニケーションの悩みなどが影響している場合など、横断的に取り組まないと難しい事案は多いです。ほっとステーションができてからは、問題の背景を踏まえた見立てに基づく対応がしやすくなりましたね」(並河氏) 4月にスタートしてから約4カ月、129の家庭から相談があった。複数回の相談に上るケースもあり、計279件の相談に対応してきたが、長期的な対応を必要とする事案はあるものの、今までと比べて極端に事態が悪化している事案はないという。 「相談員に校長や園長の退職者を起用してよかったと思っています。教育事情に詳しく経験も豊富なので、見立ての話や専門家を入れることの必要性をすぐに腹落ちしてくれましたし、現場も大先輩がついていると安心感を持つことができます。結果的に、中学校は4校すべて、小学校は9校のうち7校が去年と比べて残業時間が減っています」(並河氏)