天理市が「保護者対応窓口」を新設した深刻な背景 教職員77.5%「保護者対応に負担を感じている」
保護者の不安に寄り添い「こどもまんなか」の視点で対応
しかし、単なる苦情受付窓口ではないと、並河氏は強調する。 「設置当初、本市がモンスターペアレント対策の窓口を作ったとの報道もありましたが、それは誤解です。最も重視しているのは保護者の不安。多くの保護者が子どもに対し、どうアプローチすればよいかわからず不安になっています。中には、相談の際にご自身の生い立ちや苦悩を吐露される保護者も。そうした不安や苛立ちが過度に攻撃的となって、先生のほうへ向かってしまうのです。 起きた事象の当事者である子ども、そして保護者の不安や不満の原因は何なのか、中長期的に安心して過ごせるようになるにはどうしたらよいのか。その見立てのためにも、傾聴やカウンセリングを大切にしています」(並河氏) 保護者に寄り添いながらも、見立ての軸とするのは「こどもまんなか」の視点だ。子どものためにならない状況であれば、保護者が納得して落ち着いた場合でも解決とはみなさないこともあるし、保護者の要望に対応しないこともある。 「例えば、『わが子とケンカした子どもを視界に入らないようしてほしい』といった要望もいただきますが、仮にトラブルの相手と接触しないよう見張りをつけたりしたら、お子さんは孤立しますよね。そのような場合には、要望への対応はお子さんのためにならないことを説明して『対応しません』と伝える必要がある。『できない』のではなく、『こどもまんなか』の視点から『しない』のです。 学校や園がそうした主体性を取り戻して初めて、保護者との歪んだ関係が是正されていくと思うのですが、それを先生方だけでやるとなると負担が重すぎます。だから、保護者の相談に先生が直接タッチしない仕組みをつくったのです」(並河氏) 一方で、教職員側のアップデートも必要だ。とくに見立てや子どもたちの特性についてはもっと学ぶ必要があると考え、全教員を対象に心理士や作業療法士などによる研修を設け、適切な対応ができるようサポートも行っている。 ほっとステーションの開設に当たっては、仕事に熱心な教職員ほど反発し、「私たちの頑張りを否定しているのか」「保護者との信頼関係の下で教職員は育っていくのに、別部隊に任せてしまったら後進を育成できない」という意見もあった。しかし、専門家による研修を通じて、教職員たちの見立ての重要性に対する理解が深まってからは風向きが変わってきたという。 「これまでは各教職員の経験則や忍耐力に頼りすぎていました。かといって、仮に加配で対応しても予算との関係で限界は見えてきますから、教職員以外の専門スタッフを入れながらチームで対応したほうがはるかに効率的です。行政のチームと学校現場が一緒になって『こどもまんなか』の視点で見立てを行い、子どもや保護者の不安を取り除いていく。本来身に付けるべき力はそうした対応力であることが、現場でも理解されつつあります。すべての先生とここを共有することが今後の課題です」(並河氏)