和洋折衷をコンセプトにグローバルに活躍するデザイナー、桑田悟史とは
和洋折衷のタイムレスな服
セレクトショップに就職してから20年近くが経ち、「まだまだ学ぶことはありますが、もうそろそろやらないと」と2020年にセッチュウをスタートさせる。日本、中国、アメリカなどいろいろな国でものづくりを試したが、高度な手仕事に魅了され、イタリアで生産することに。工場とのやりとりに都合が良いミラノに拠点を置いた。 経験を積む中で、「iPhoneや、エルメスのバーキンやケリーといったバッグ、リーバイス®のジーンズ501®のように、世界中でコンスタントに売れているものは高品質で、シーズンごとに劇的に変化させるのではなくタイムレスな型を更新している」ということに気づき、そうした方向性でコレクションを構成していきたいと思うように。そして、「オートクチュールではないので万人に合うものではないが、万人が使いやすいこと」を心がけることにした。そのために必要なのはシグネチャーとなるアイテム。試行錯誤を重ね、コロナ禍で時間ができて集中して取り組めたことでようやく「折り紙ジャケット」が生まれたのだった。 「自分が日本人だということもあり、折り紙の原理を使ってデザインしました。それにサヴィル・ロウ流の仕立て方、イタリアの工場流の作り方を融合させています。折り紙のように畳めるうえに、趣味の釣りに行くとき釣具がかさばるのでどうにか服の量をコンパクトにしておしゃれもできないかと思ったことから、いろいろな着方ができるのも特徴です。シーズンごとに素材を変えたり、さまざまなアイテムに置き換えたり、新しい着方をどんどん足して世界観を深めていっている感じです」。 「和洋折衷」は幼い頃に思いついたアイデアだが、日本の要素を取り込んでいるのは「先人のおかげで、海外で日本が人気」であること、そして自身のルーツによるところは大きい。 「特に若い世代の方に日本の文化を正しく伝えたい、という気持ちはあります。例えば言葉だけがひとり歩きして本当の意味はよく知られていない“ゲイシャ”を、着物で衣紋を抜いたような姿になるモデルの名にすることによって、“東洋ではうなじを見せることがセクシーである”、という教養を身につけるタイミングにもなるのかもしれないな、と」。 そうして確固たるコンセプトを掲げて発進したセッチュウは、設立わずか3年目でLVMHプライズのグランプリを受賞。現在はミラノ・メンズ・ファッションウィーク期間中に新作を発表している。ただ、「生地をオリジナルで作っているので他ブランドに比べて生産に時間がかかり、スケジュール的に都合が良い」からそうしているだけで、メンズウェアとして打ち出しているわけではない。 「サヴィル・ロウは長年にわたって男性が優勢を占めてきた業界で、“女性お断り”のお店もあったのがすごく恥ずかしいな、と感じていました。ですから、僕にはサヴィル・ロウの服を女性にも着てもらいたい、という思いがあります。男性と女性では骨格の違いがあるので袖付けをニュートラルにしたり、ドローストリングウエストにしてサイズを調整できるようにして、性別問わず着られるようにしているんです」。