ジェンダー平等のカギは、男性含む「全員」の当事者意識
女性活躍推進はゼロサムゲームではない
――先ほど「女性活躍はみんなの課題」というお話がありました。日本の現状を変えるため、特に男性に求められる振る舞いや行動はありますか。 男性の方には、ぜひ当事者意識を持ってほしいですね。「女性活躍推進」は男女共通の課題ですから、決して人ごとではないのだと。日本では「ジェンダー平等」や「フェミニズム」という言葉をうさんくさく思っている男性が、少なくないように感じます。ただ、フェミニズムの本来の意味は「男女平等主義」であって、「女性優遇主義」ではないということが定着していないように思います。 また、女性の間でも、自分には縁遠い問題だと思う人が多くいると思います。かつての女性運動のイメージからか、女性活躍を推進するのは「強い女」で、「普通の人」である自分には無関係だという思いもあるのかもしれません。だからこそ、「女性のことは一部の女性だけが頑張ればいい」「LGBTQ+のことは当事者だけが頑張ればいい」というのではなく、自分はこの社会をつくり上げている一人で、社会を構成する全員が当事者なのだと気づくことが、日本の現状を変えていく上でまず重要なことだと思います。 ――女性が働きやすい社会は、男性にとっても働きやすい社会ですよね。 男性の育休の話は、まさにその典型例だと思います。「女性活躍推進」はゼロサムゲームではありません。ジェンダー平等が推進されたからといって、今ある男性の権利やチャンスが奪われるわけではないのです。ときどき、「女性 VS 男性」という構図で見る人がいますが、管理職などのポストは有限ではありません。女性が労働市場に出ることで、市場自体が大きくなり、ポスト自体を増やすこともできるのです。 ――福岡さんのご経験もお聞きかせください。福岡さんは今、UN Womenの日本事務所長という立場ですが、トップに就くことへの迷いはなかったのでしょうか。 今回は迷いませんでした。というのも、過去にずっと迷ってきたんです。このままでいいのだろうか、私にできるのだろうかと、逡巡を重ねてきたからこそ今の自分があります。そんな中で私がいつも思うのは、パートナーシップやチームワークの大切さです。どんな大きな組織でも、何かを成し遂げるには、協働できるパートナーを見つけることが重要です。よきパートナーを見つけることで、一緒に切り開いていけるという自信もつきました。 私のファーストキャリアは、中学校の英語教師でした。教師なら男女差がない職業だからと、職業婦人だった母の勧めで教師になりました。 生徒たちに英語を教えながら、いつも考えてしまうことがありました。言葉はツールでしかなくて、英語を使って「何を伝えるか」の方が大事なのではないかと。私は生徒たちに言語を教えることはできるけど、伝えるべき中身を持ち合わせていない。もっと世界を見てみたいと思い、4年で教師を退職し、米国の大学院に留学しました。 大学院修了後は、そのままワシントンDCに本部がある、環境問題に取り組む大手NGOに就職。すぐに日本との連携を深めてくれというトップの指示があり、その組織初の日本代表に就任することになりました。 ――職務経験が浅いうちから、重要なポジションを任されていたのですね。 当時は30歳でした。今でこそ女性リーダーは珍しくありませんが、当時はグローバルでも、会議の場に若い日本人女性は私一人ということがよくありました。すると物珍しいのか、議論中によく意見を求められるんです。きちんと期待に応えたいと思い、一生懸命勉強しました。 今回のUN Women日本事務所長への就任も、実は、前職の国連開発計画(UNDP)時代に上司だった人がUN Womenのトップに就いたことがきっかけで声をかけられました。これまでの経験から思うのは、女性自身がどうありたいのかが大事であると同時に、周囲がその人をどう扱うかがその人のキャリア観に大きく影響する、ということです。このインタビューのテーマにも関連させますと、上司が「あなたならきっとできる」と信頼を寄せ、実際に仕事を任せることで、後から自信もついてくるのだと思います。