なぜ55歳”キングカズ”のJFLデビュー戦は異例ずくめとなったのか?放ったシュートはゼロも「今日だけで去年の60倍も出た」
ただ、昨シーズンの公式戦にほとんど立てなかったツケは、カズをして“ガス欠”と言わしめた代償を伴って表れる。後半20分の交代は自ら望んだものだった。 「それ(ガス欠)がすぐにわかったので、自分から監督に合図を出しました。もうちょっと試合の体力がついてくれば、いい場面をもっと多く出せるかなと思っています」 試合はカズがベンチへ下がった後に動いた。後半26分に三宅が右クロスを頭で決め、同アディショナルタイムにはDF菊島卓(28)が豪快なミドルシュートで続いた。 「大観衆が背中を押してくれたという意味では、カズが鈴鹿に来た影響は非常に大きかった。そのなかで今日のプレーのためにカズが積んだ努力や準備にも感謝している。カズがそういう姿勢を見せることで、他の選手たちが成長していく試合になった」 三浦監督が言及した“カズ効果”は、ヒーローインタビューに反映されていた。 「こんなにお客さんが入ったなかで試合をしたのは初めてです」 JFLの栃木ウーヴァFC(現栃木シティフットボールクラブ)などでプレーした菊島が言葉を弾ませれば、ドイツでプレーした経験を持つ三宅も笑顔で胸を張った。 「みなさんのお目当てはカズさんだと思いますけど、カズさんだけじゃないんだよ、というのを今日の試合で示せたと思います」 カズが引き寄せるファン・サポーターの存在が、そして日々の練習で見せる真摯な姿勢が若手選手たちを刺激する。相乗効果としてシーズンと同時進行で、鈴鹿そのものが成長していった先に待つ未来をカズ自身が楽しみにしている。 「そうなれば自然とゴールチャンスも増えていくと思うので。試合に出られることはやはり選手にとって一番大事だし、メディアの方もたくさん集まっていただいたなかでプレーできる喜びというか、素晴らしい舞台に立たせてもらったとあらためて感じています」 敵地に乗り込む20日の次節では、名古屋市港サッカー場でFCマルヤス岡崎と対戦する。まずは疲労を取り除いた上で、練習を介してベストの準備を積み重ねる。兄が監督だからといって常時先発できる保証はない。それでも昨シーズンまでと比べてピッチに立てる確率が大きく膨らんだ状況が、カズのモチベーションをどんどん高めていく。 (文責・藤江直人/スポーツライター)