なぜ55歳”キングカズ”のJFLデビュー戦は異例ずくめとなったのか?放ったシュートはゼロも「今日だけで去年の60倍も出た」
Jリーグで実施されているリモート形式ではなく、対面で行われた試合後の記者会見。横浜FCの一員としてJ1を戦った昨シーズンは無縁だった、プレーした後の心地よい疲労感を漂わせたカズは、午後1時のキックオフとともに歴史に名を刻んでいた。 3トップの一角として新天地・鈴鹿で先発デビューを果たしたカズは、前半開始を告げる主審のホイッスルとともにボールを後方に預けた。この瞬間にFC東京などで活躍したブラジル出身のFWアマラオが、FC刈谷でプレーした2009シーズンにマークした43歳9日のJFL最年長出場記録を55歳15日へ大幅に更新した。 昨シーズンのJ1リーグ戦における、1試合、わずか1分間だった出場記録を自虐的に持ち出しながら、後半20分までプレーした青森戦をカズはこう表現した。 「今日だけで去年の60倍も出てしまったので、さらに何倍も出たいなと思います」 実際のプレー時間は昨シーズンの65倍だったが、更新が期待されていたもうひとつの記録、永井秀樹がFC琉球時代にマークした42歳50日のJFL最年長ゴールは、チャンスすら訪れなかった。放ったシュートが「0」のまま交代したからだ。 スタンドを沸かせかけた瞬間はあった。前半42分だった。 右サイドからFW三宅海斗(24)が放った、低く速いクロスにファーサイドで反応。MF佐久間駿希(22)に身体を寄せられながら、それでも必死にジャンプしたカズの頭上をわずかに超えたボールは、そのままゴールラインを割っていった。 大観衆の存在は実は青森をも燃え上がらせた。鈴鹿のボールホルダーに対してファウルを厭わずに、勢いよく突っ込んでくる相手選手たちの姿にカズも、そしてGMとの兼任で指揮を執る実兄の三浦泰年監督(56)もともに苦戦を覚悟した。 特に三浦監督は今シーズンから指揮を執る柴田峡監督(56)のもと、青森がどのようなスタイルに変わっているのか、という情報を十分に得られなかったと明かした。 「前半から少し硬めというか、開幕の独特な雰囲気もあって、メンタル的にも伸び伸びプレーできる環境ではないな、と。その意味では想定内の展開で試合が進んでいった」 相手の情報不足に緊張感も背負った鈴鹿は、前半のシュート数を「0」で終えている。青森のキャプテン、MF差波優人(28)が前半35分に著しく危険なプレーで一発退場を宣告されても、ホームの鈴鹿がチャンスすら作れない展開は変わらなかった。 状況によっては中盤に下がり、ボールタッチ数を増やしながらリズムを作り、ペナルティーエリア内へ入り込んでいくプレースタイルのカズも、前半の早い段階から考え方を改めた。先制点を与えない試合運びを前提として下された結論だった。 「綺麗なサッカーよりも勝つためのサッカーをやらなきゃいけない、と思いながらずっとプレーしていた。自分らしいプレーを出せなくても、そこはしょうがないと」 心がけたのは泥臭く、かつ献身的なプレー。攻撃のタクトを振るうMF橋本晃司(35)が負傷退場した後半5分からは、代わりに赤いキャプテンマークを左腕に巻いた。