なぜ「政権交代の壁」を崩せなかったか 石破政権延命、「政治とカネ」にけじめは?【解説委員室から】
◆「細川―河野」トップ会談で決めたこと 前原氏は代表質問で「企業・団体献金禁止の代替措置で創設された政党交付金を受け取るなら、企業・団体献金や企業・団体のパーティー券購入を禁止することは当然ではないか。自民党はいつまで『二重取り』を正当化し続けるつもりか。禁止できないなら、政党交付金の受け取りを即刻、辞退すべきだ」と求めた。 これに対し、首相は「企業・団体献金の禁止が政党交付金の前提となっていたという事実はない」と答弁し、重ねて禁止に否定的な見解を示した。 この首相答弁に対しては、大西氏が5日の予算委で、30年前の政治改革当時、自民党総裁だった河野洋平元衆院議長の衆院事務局へのオーラルヒストリー(23年公表)を根拠に反論した。河野氏の発言要旨は次の通りだ。 1、細川護熙首相(当時)とトップ会談で決めたのは、小選挙区制でいく、企業献金をやめる、この二つが政治改革の車の両輪。今は片方しか回っていない。 2、企業献金と公費助成は「トレードオフ」の関係(何かを得ると何かを失う関係)。公費助成が実現したら、企業献金は廃止しなきゃ絶対におかしい。5年後に見直すと法律の付則に書いたのに、スルーした。 3、企業献金が多いから税制をはじめ政策がゆがんでいる。庶民から企業の方へ政策のウエートがかかって、企業献金が政策のゆがみを引き起こしている。 河野氏も、企業献金と政党交付金の「二重取り」はおかしいという認識だということが分かる。 大西氏も「30年前の約束を守ってほしい」と追及したが、石破首相は、「その時、公的助成が入ったので企業・団体献金がなくなるという意識を持った者は、少なくとも自民党にいなかったと思っている。公的助成だけで運営される政党が、民主主義の政党としてあっていいとは思わない」と突っぱねた。 首相はこれまで、企業・団体献金に関し、政党に対する企業の寄付の自由を認めた1970年の最高裁判決を例に挙げ、「禁止よりも公開」「高い透明性の確保」が重要との見解を示している。10日の衆院予算委では、立民の米山隆一氏が「企業・団体献金の禁止は憲法に反すると思っているのか」と質問すると、「(表現の自由を保障した)憲法21条に抵触する」「企業も表現の自由を有しており、それは自然人(個人)か法人かを問わない」と語った。立民側はこの日も過去のトップ会談の経緯を持ち出して、企業献金禁止を迫ったが、首相が譲ることはなかった。 ◆国民民主が立民案に反対する理由 なぜ自民党は企業・団体献金を断ち切ることができないか。そのカネが権力の源泉でもあり、自民党の命綱でもあるからだ。前原氏の代表質問を続ける。 「自民党は自ら企業・団体献金をやめることも、その法案に賛成することも、絶対にないだろう。企業・団体から資金や選挙の協力を受け、その後押しで選挙を戦い、政権の座に就くことで得た政府の予算執行権や許認可権で恩返しをするという、日本の根幹にあるしがらみの権力構造こそ、自民党を政権の座にとどまらせている最大の要因だからだ」 「与党過半数割れの今、全野党で歩み寄れば、衆院で法案を通過させることができる。衆院で過半数の民意を得て通過した法案を、参院で自民党が自己都合で一方的につぶすことは、容易にできることではない。自民党も賛成に回るか、大幅に譲歩するしかなくなる。政治に歴史的な変化を起こせる千載一遇のチャンスが訪れている。自民党以外の各党各会派にもお願いしたい。企業・団体献金の禁止については、党派を超え、国民がわれわれに何を期待しているのか、もう一度真摯に向き合って実現させようではないか」 前原氏が協力を呼び掛けた野党各党のうち最大のターゲットは、国民民主党であろう。国民民主幹部は企業・団体献金の禁止について「野党が一致したらいい」(玉木雄一郎代表=当時)とか、「各党が全面禁止で仮に合意するなら結論を尊重する」(古川元久代表代行)などと述べている。 国民民主は、立民案が禁止対象に「政治団体」を除外していることを「抜け道」と批判していると先に書いた。組合関係の政治団体が立民の念頭にあると、国民民主幹部はみているようだ。野党共闘から距離を置く国民民主のスタンスについて、立民中堅議員は「結局、企業・団体献金を温存したい自民を助けることになる」と批判。これに対し、国民民主は「立民の企業・団体献金禁止の主張は、自民の反対で法案が通らないと分かっているので、禁止の姿勢をアピールしたいだけだ」(党関係者)と反発。企業・団体献金を巡っても立民、国民両党の隔たりは埋まりそうにない。