なぜ「政権交代の壁」を崩せなかったか 石破政権延命、「政治とカネ」にけじめは?【解説委員室から】
企業献金も政党交付金も“いただきます”
◆所信表明演説、政治改革は後回し 12月2日の衆院代表質問で、立民の野田佳彦代表は冒頭、石破首相の所信表明演説について、「いつ政治改革を話すか待っていたが、後半の後半、とってつけたように最後に触れた」と指摘した。続けて、「総選挙の後、少数与党に陥ったことを真摯(しんし)に受け止め、政治とカネの問題で国民は厳しい審判を下したので、深い反省の下、これからどのように政治を正し、国民の信頼を取り戻すか、そこから始めるのが本来の組み立てではなかったか」と批判した。 確かに、11月29日の所信表明演説で首相は、政権運営の基本方針から始め、外交・安全保障、地方創生、社会保障、防災対策、経済対策などを語った後、最後の方でようやく政治改革や憲法改正について語っていた。 首相は政治改革について「先の選挙結果は、国民からの政治資金問題や改革姿勢に対する叱責であったと受け止めている。謙虚に、真摯に、誠実に国民と向き合いながら政治改革に取り組む」と表明。政策活動費の廃止、政治資金を監査する第三者機関の設置、収支報告書のデータベース構築などに触れ、「国民の政治に対する信頼を取り戻すため、党派を超えて議論し、年内に必要な法整備も含めて結論を示す必要があると考えており、誠心誠意、尽力していく」と語った。 首相が企業・団体献金について言及しなかったことから、野田氏は「改革の本丸である企業・団体献金の禁止をなぜ議論の俎上(そじょう)に載せようとしないのか」とただした。 これに対し首相は、「政党として避けなければならないのは、献金によって政策がゆがめられることだ。これには個人献金も企業・団体献金も違いはない」と答弁。一時、議場がやじや怒号で騒然となり、首相はむっとした表情で、しばし議場をにらみつけて答弁を再開。「わが党としては、企業・団体献金自体が不適切とは考えていない」と述べた。 ◆「30年前の政治改革の宿題」 リクルート事件後の1994年の政治改革で、政党や資金管理団体への企業・団体献金は認められたが、税金を原資とする政党交付金が導入されたことに合わせ、企業・団体献金は5年後に「見直しを行う」との法律の付則が盛り込まれた。 99年には政治家の資金管理団体への献金も禁止される一方、政治家らが代表を務める政党支部は受け取ることが可能となり、現在に至っている。つまり、政治家が政党支部経由で自らの政治資金管理団体に入金させることもできるので、野党は「抜け穴が残っている」と問題視している。 野田氏は「政党交付金と企業・団体献金の二重取りだ。30年前の政治改革の宿題にきちっと答えることこそ、抜本改革の柱だ」と強調した。 ◆「見返り」を求めない企業はない―前原氏 日本維新の会の共同代表になったばかりの前原誠司元外相は2日の代表質問で、野田氏と同様に「政治改革の本丸は企業・団体献金の禁止だ」と表明した。 「企業・団体献金は日本の重要なかじ取りに関わる意思決定をゆがめている。自民党の資金団体である国民政治協会に各種団体、大企業が何千万円もの献金を毎年行っている。これだけのお金を出して何の見返りも求めないなど、あるはずがない」 総務省が11月29日公表した政治資金収支報告書によると、2023年に企業や業界団体が自民党に献金した総額は24億37万円(前年比1.9%減)。企業の最高額はトヨタ自動車と住友化学の5000万円だった。住友化学は経団連の十倉雅和会長の出身企業だ。3位はキヤノンの4000万円。以下、3000万円台から数百万円の献金額で大企業がずらりと並ぶ。 業界団体の献金額は多い順で、日本自動車工業会(7800万円)、日本電機工業会(7700万円)、日本鉄鋼連盟(7000万円)、石油連盟(5000万円)、不動産協会(4000万円)と続く。 国会議員が関係する政党支部の中央分と地方分を集計すると、企業・団体献金の総額は18億9513万円で、このうち自民党の支部は計17億8437万円。立憲民主党の支部への献金は、計5024万円―との報道もある。 企業・団体がなぜ政権与党の自民党に多額の献金を行うのか。その根本的な理由は広い意味で何らかの「見返り」を求めるからだと指摘される。 12月5日の衆院予算委員会で立憲民主党の大西健介氏がかつての財界人の言葉を紹介していた。 「企業献金はそれ自体が利益誘導的な性格を持っている」(亀井正夫住友電工会長、当時) 「企業が議員に何のためにカネを出すのか。投資に対するリターン、株主に対する利益を確保するのが企業だから、企業が政治にカネを出せば、必ず見返りを期待する」(石原俊経済同友会代表幹事、同) 企業・団体献金が「見返り」を期待しているのは、昔も今も大きく変わらないだろう。