なぜ「政権交代の壁」を崩せなかったか 石破政権延命、「政治とカネ」にけじめは?【解説委員室から】
◆国民民主に迫られる「踏み絵」 国民民主党が総選挙の公約に掲げて要求している最重要課題の一つは、所得税がかかる年収の最低ライン「103万円の壁」の引き上げだ。自公国3党の政策協議で既に引き上げでは合意。具体的な引き上げ幅が今後の調整となるが、国民民主が求める178万円までの満額回答が得られるどうか。財源問題もあり、協議は難航必至だろう。 自公と国民民主との協議が決裂すれば、内閣不信任決議案が提出された場合、数の上では可決される可能性もある。 しかし、ここに来て国民民主の自民寄りの姿勢も見え隠れする。玉木氏が11月27日、首相官邸に乗り込み、石破首相に原発の新増設さえ求めるぐらいだ。国民民主が連合傘下の電力総連、電機連合などに支援されていることを考えれば、支援組織向けのアピールともみられるが、今後よほどのことがない限り、国民民主は最終的には予算成立にも協力するのではないか。「政治とカネ」の問題を巡って、国民民主は野党各党が求める「企業・団体献金の禁止」について独自の立場を示しており、立民の企業・団体献金禁止法案に「政治団体を除く」と書かれていることから、「抜け道ではないか」と批判している。 「国民民主はいずれ、与党か野党かの『踏み絵』を踏まされる。来年度予算に賛成するか反対するかだ。今の流れだと、賛成の方向しかないだろう」と立民幹部の一人は語る。 自民党の中には、政策協議最終盤での国民民主の「ちゃぶ台返し」を警戒する向きもあるが、ここまで来て、国民民主が全てをぶち壊しにするような判断に踏み切るだろうか。 玉木氏ら国民民主幹部はこれまで「是々非々」の立場で、与党とも野党とも政策協議を行い、政策実現を図ると強調。与党と政策ごとに合意する「部分連合」という言葉にも否定的な考えを示してきた。 しかし、結局、与党の「補完勢力」となり、石破政権の延命に手を貸す役割を果たすことになるのではないか。現段階ではそう思わざるを得ない。ただ、来夏の参院選を考えれば、自公と連立を組むことはちゅうちょするだろう。 「国民民主党にとって、今の立場は一番気持ちがいいだろう。国会でキャスチングボートを握り、与野党に言い分を通して、メディアにも注目される存在となったのだから。しかし、予算成立後はどうなるか分からない」と自民関係者は指摘した。 国民民主党は12月4日に、不倫の事実関係を認めて謝罪した玉木氏を3カ月の役職停止とする処分を決めた。玉木氏は代表辞任を否定し、当面、一衆院議員として活動し、代表としての記者会見もしないという。来年3月3日までは古川元久代表代行が代表職を担い、その後、玉木氏は代表に復帰する予定だ。私的なことだが玉木氏が失った信頼をどこまで回復できるかは未知数だ。 ◆野党共闘失敗、「全ては準備不足」 野党第1党、立憲民主党にとっては、躍進した玉木氏ら国民民主党を野党共闘の仲間に引っ張り込めなかったのが、最大の失敗だったのではないか。なぜ、「政権交代の壁」は崩すことができないのか。立民の元幹部が振り返る。 「野田佳彦氏は代表就任から総選挙の公示日までの間、野党共闘に向け何も動かなかった。本来もっと早く、国民民主党とも十分に政策協議し、玉木氏を取り込んでおくべきで、安保、エネルギー・原発など基本政策は、急激な変化が混乱をもたらすから、当面は現状維持でいいと言っておけばよかった」 「国民民主の政策も、野党が政権を取れば、いずれ100%実現できることになる。『年収103万円の壁』引き上げで自民党と合意しても、あとは178万円からの値引き交渉にしかならない。政権を取れば、こちらの要求は全部通ると説得すればよかった」 「自民党の裏金議員の選挙区だけでも選挙協力して、野党共闘ができた場合の絵を描いておくべきだった。何の準備もせず、首相指名選挙前に急に『野田佳彦の名前を書いてください』と言っても遅過ぎる」 自民党の「裏金議員」の一人、萩生田光一元政調会長が出馬し当選した衆院東京24区は、野党各党がばらばらで候補者を擁立した典型的な選挙区だ。「野党候補の票を足し合わせると、萩生田氏の票を完全に上回っているのに、何も調整していないなんてどういうことだ」。元立民幹部は憤るが、後の祭り。 国民民主党が候補者を擁立している選挙区に、立民が後から対立候補を立てた選挙区も秋田や愛媛などであり、これは玉木氏の根強い恨みを買っている。今でも立民と国民民主がなかなか共闘できない大きな要因の一つと言える。 元立民幹部は今でも悔やみきれないように「全ては準備不足だった」と語った。