なぜ「政権交代の壁」を崩せなかったか 石破政権延命、「政治とカネ」にけじめは?【解説委員室から】
2024年10月の衆院選で自民、公明両党の与党が過半数を割り、「少数与党」の石破内閣は野党の協力を得なければ予算案も法案も国会を通らない状況にある。石破茂首相は「政治とカネ」の問題にけじめをつけ、国民の信頼を回復できるだろうか。一方、立憲民主党の野田佳彦代表は政権交代に道筋をつけられるか。国会では再び「政治とカネ」を巡り攻防が続いているが、企業・団体献金の禁止を含む抜本改革は自民党の反対でまず無理だろう。それでも24年度補正予算や25年度予算の成立に向け、キャスチングボートを握る国民民主党の要求をある程度のみ込めば、石破政権は延命できる。立民など野党が「政権交代の壁」を崩すのは容易ではない。(時事通信解説委員 村田純一) 【図解】政党支持率の推移 ◆消えた「石破カラー」 11月28日、臨時国会が召集された。会期は12月21日まで。石破政権の当面の課題は24年度補正予算の成立と政治資金規正法の再改正だ。25年度予算編成と税制改正でも、石破政権は国民民主に低姿勢で協力を求めるしかない。来春、25年度予算を成立させ、自民党派閥の裏金事件などで失った信頼を回復して内閣支持率を上昇させることができれば、石破内閣として25年夏の参院選に向けての視界は開けてくる。 しかし、そんなに都合良く政局が進むとは限らない。政界の一寸先は闇。もともと政界に友だちや側近議員が少ない首相の政権基盤は弱い。安倍政権時代の「官邸1強」とは様変わりし、今は「党高官低」。政府・与党内で首相の思い通りの政権運営が続いているとは言えない。 安倍政権時代から長く要職を離れていた石破氏は、政権批判も辞さずに持論を主張。「党内野党」と言われながらも、国民の人気は高く、次期首相候補の世論調査でも上位を占め、存在感を示してきた。 ところが、首相就任後は自民党総裁選で示した数々の持論を封印。アジア版NATO(北大西洋条約機構)の創設、日米地位協定の見直し、原発ゼロへの努力、選択的夫婦別姓の導入など、当初の発言は後退し、「石破カラーは消えた」とも評された。 ◆立民・辻元氏、新首相に期待も落胆 12月3日の参院代表質問。立憲民主党の辻元清美代表代行は、石破首相に対し期待したものの落胆した国民の心情について、自らの思いも含め言い当てていた。 辻元氏は、首相が所信表明演説で取り上げた石橋湛山元首相に触れた上で、「石橋湛山氏は『最もつまらぬタイプは自分の考えを持たない政治家だ』と言っている。このままでは、あなたはブレまくり、つまらない政治家になってしまうのではないか」―。 その上で、こう続けた。 「石破さんが苦労してやっと総理になった時、私はちょっとうれしかった。ところが今は、『正論・石破』の精彩を欠き、まるで別人に見える。ただの『評論家・総理』で終わってしまうのか。国民も『石破さんなら、ブレずに、自民党のウミを出し切って改革してくれる』と期待していた。だから人気が高かった」 「その石破さんが総理大臣になっても、自民党のしがらみにがんじがらめになって、何も変わらないとなれば、もうどなたが総理大臣になっても、自民党政権では真の改革は難しいということになる。その時は、私たちが代わって、やります」 確かに自民党総裁就任直後の石破氏への期待感は人によっては高かった。だが、その期待はあっという間に、吹き飛んだ感がある。総裁選で重視するとした予算委員会を開かずに衆院解散・総選挙を宣言したのが最初の大失敗。後は、裏金を巡る自民党の公認、非公認問題で迷走し、非公認候補への2000万円支給も発覚。石破氏の「変節」ぶりは厳しく批判され、自民党は総選挙で大敗した。 「自民党が変わる前に石破氏が変わった」と揶揄(やゆ)したのは、このほど不倫問題で3カ月の役職停止処分を受けた国民民主党の玉木雄一郎代表だったが、これも忘れられない言葉だ。 石破氏は巨大・自民党という組織にのみ込まれ、「国民の声を聞くより、党内融和を優先した」ことが、有権者の失望を招いたと、自身も認識しているようだ。 総選挙での敗北と反省から、どう自民党を立て直し、世論の信頼を取り戻すかが石破政権の大きな課題だ。しかし、国会論戦を聞く限り、自民党が大きく変わるという期待感は依然として低いままのようだ。 だからといって、先の総選挙での民意は、今の石破政権を倒して、野党に政権を任すというところまではいかなかった。「少数与党」として石破政権は続投。国民民主党は野党ながら、事実上、石破政権の「補完勢力」になりつつあるように見えてならない。