「赤ちゃんができたら幸せになれる」と信じていた。突然、自分を支配する恐怖、死への衝動…「産褥期精神病」を知っていますか?【書評】
この記事はセンシティブな内容を含みます。ご了承の上、お読みください。 【漫画】本編を読む
妊娠や出産にどんなイメージを持っているだろうか? 喜びや期待がある一方で、不安や心配も感じることが多いかもしれない。『妊娠したら死にたくなった~産褥期精神病~』(橘ちなつ/ぶんか社)は、「産褥期精神病」を発症した著者の実体験をもとにした作品である。 妊娠出産に憧れを抱く、主人公の千夏。実際に妊娠がわかったときは、幸せの絶頂だった。しかし、つわりが始まり、一般的にピークと言われる時期を過ぎても治まる気配がない。どんどんと減っていく体重。焦りや苛立ち、不安も募り、ついには入院生活を送ることになる。ここで一旦体調は回復するのだが…。 退院し、いつも通りの生活を送っているとき、突然涙が止まらなくなり、心がざわつき始める。この不安感は次第に大きくなり、「怖い」という感覚に支配されてしまうのだ。 この『妊娠したら死にたくなった~産褥期精神病~』では、妊娠出産を通じての精神的な苦悩がリアルかつ詳細に描かれている。妊娠出産では、母体に身体的な大きな変化があることは間違いない。さらに、妊娠中や出産後は、女性ホルモンのバランスが大きく変化することで精神的にも大きな変化をたらす。産前産後に「産褥期精神病」をはじめとする、精神疾患を発症する人も少なくない。 千夏は元々精神的な病で薬を処方されていたが、因果関係があるかは定かにはなっていない。「私は大丈夫。関係ない」と思っている妊婦もいるかもしれないが、このような精神疾患を発症する可能性はゼロではなく、誰にでも起こる可能性はある。そのときに、事前にそういった知識があるのとないのとでは、対応も変わってくるだろう。これから妊娠出産を控えている人や、その家族はもちろんだが、ひとりでも多くの人に手に取ってもらいたい作品だ。 文=ネゴト / 森ソタカ