【単独インタビュー】レアンドロ・エルリッヒが、新作に込めた想いとは? 『森の芸術祭 晴れの国・岡山』の見どころを解説
3.奥津渓・蒜山地区
これから紅葉の季節を迎える鏡野町の奥津渓では、新進気鋭のアーティスト立石従寛が、ミラーを用いたサウンド・インスタレーションを展開。周囲の自然環境から抽出したさまざまな生き物の鳴き声や物音などを素材に有機的なサウンドを構築した。彼が造形的なインスピレーションを得たという、渓流の流れに洗われて出現した奇岩の眺めにも注目してほしい。 岡山県北部をさらに北上したところにある真庭市では、建築家・隈研吾設計の観光文化施設「GREENable HIRUZEN」に、4名のアーティストの作品が展示されている。 写真家・川内倫子はこの地に何度か訪れ、真庭市蒜山(ひるぜん)をはじめ岡山県北を中心に多彩な被写体を捉えた。かねてより撮影したかったという日本有数の奇祭、はだか祭りを追った作品には川内ならではのみずみずしい「生」が迸る。祭りに集まった子どもたちの集合体、祭りの最中に報道陣によりたかれたのフラッシュと真庭市北房の無数のホタルの煌めきが呼応しあう映像作品は、抽象化された小宇宙のイメージや未知の海洋生物の群れにも見え、近年展開する創作の傍流ともいえるユニークな現象の捉え方が新鮮だった。
4.勝山地区
「暖簾の町」としても知られる勝山町並み保存地区では、自身の本籍があることから真庭市の観光大使を務める建築家・妹島和世が手がけた木製の椅子が店舗や民家の軒先に並んでいる。ちょっと腰かけて休憩やお喋りのできるこれらの椅子の設計図は、芸術祭閉幕後も常設作品として残されるそうだ。自転車店や酒店、病院など、あらゆる建物の軒先に掛かるそれぞれの職種を示すデザインの草木染暖簾は、衆楽園でリクリット・ティラヴァニとコラボレーションした染織家・加納容子の手によるもの。加納作の他のアイテムもオリジナルショップで買い求めることができる。
5.満奇洞・井倉洞エリア
いよいよ本芸術祭のクライマックスともいえる2つの展示、カルスト台地で形成された新見市南部にある複数の鍾乳洞のなかでも特に名高い満奇洞と井倉洞である。 蜷川実花with EiMによる『深淵に宿る彼岸の夢(Dreams of the Beyond in the Abyss*)』は、かつて歌人の与謝野鉄幹・晶子夫妻が訪れ、「冥府の路を辿るやうな奇怪な光景」と表した「満奇洞」の奥にある。急勾配の坂を登ってその入り口に辿り着き、ひんやりとした洞窟に足を踏み入れると、そこは蒼ざめた光に彩られ異化された空間だった。悠久の時が積層させた鍾乳石のビザールな造形を愛でながら黄泉めぐりの道行きを楽しんでいると、奥の方に真っ赤な光が見えてくる。全長450mの鍾乳洞の奥には、朱色の太鼓橋を囲むように一面の曼珠沙華が咲き乱れ、蜷川ならではの虚構性に満ちた彼岸の夢芝居が展開されていた。 私たちの旅の最後を飾ったのは、アルバニア出身の作家アンリ・サラの作品である音と光の洞窟探検ツアーだ。全長1200m、高低差90mにおよぶ鍾乳洞・井倉洞。その切り立つ洞の周囲は物々しい雰囲気に包まれていた。数名のグループになって鑑賞する本作は、全員ヘルメットを装備し、グループの数名は、スピーカーとライトを装填したリュックを背負う。私たちの旅の最後を飾ったのは、アルバニア出身の作家アンリ・サラの作品である音と光の洞窟探検ツアーだ。 洞内は人ひとり通り抜けるのがやっとの狭いトンネルだった。急で滑りやすい坂や階段だらけで、閉所や暗所、高所が苦手な人には勇気と覚悟が必要なレベル。写真や動画を撮る余裕はない。一度中に入ってしまったからには、恐怖とも畏怖ともつかない感情と折り合いをつけ、太古の鉱物の隙間を進んでいくほか選択肢はない(後戻りはできない)。全身の感覚の起伏を背中から煽ってくる壮大な音楽。折り返し地点で出迎えてくれる幻惑的な映像。ようやく外から差し込むわずかな光が見えたときは生還できたことに心から感謝した。奇々怪界の胎内めぐりは約1時間。万全の体調で臨んでほしいダイナミックな作品で