はやぶさ2が挑む「世界初」人工クレーター生成実験とは?
人工クレーター生成の様子を捉えられるか
はやぶさ2は、爆発地点から避難する間、分離カメラ(DCAM3)を切り離します。これは、衝突装置が爆発し、人工クレーターがつくられる様子を撮影するためのもので、うまくいけば、私たちに人工クレーターの生成過程をつぶさに教えてくれることでしょう。 ただし、分離カメラは衝突装置から1キロほどしか離れていないので、爆発によって発生する高速の破片にぶつかり、損傷してしまう可能性が多分にあります。運が悪ければ、人工クレーターの生成過程を撮影する前に撮影不能、通信不能となり、実験の成否をすぐに伝える手段は失われてしまいます。 実験の終了後、はやぶさ2はリュウグウから距離を取りながらゆっくりと上空20キロのホームポジションへと戻ります。ホームポジションへの復帰は4月16日ごろの予定で、4月22日の週には人工クレーターができているかを調べるクレーター探索運用が実施されることになっています。 4月5日の人工クレーター生成実験では、はやぶさ2から衝突装置が正常に分離されているか、はやぶさ2が正常に動いているかどうかで、ミッションが滞りなく進んでいるかどうかが判断されます。はやぶさ2には衝突装置が爆発したかどうかを確認する手段がありません。分離カメラで爆発の瞬間やリュウグウに人工クレーターができたかどうかを確認できれば、早い段階で実験の成否が分かりますが、その様子を収めた画像が地球に届くには1~2日くらい時間がかかるかもしれません。分離カメラで確認できなければ、実験成否の判断は4月22日の週に実施されるクレーター探索運用までできないことになります。 はやぶさ2のこれまでのミッションは、初代はやぶさでも実施したような内容でした。しかし、今回の人工クレーター生成実験は、初代のときには考えもしなかった、はやぶさ2独自で「世界初」の実験です。 リュウグウに人工物を衝突させ、どのようなクレーターができるのかを観測することによって、小惑星におけるクレーターのでき方を知るだけではなく、リュウグウの地下の様子が分かり、太陽系での天体の進化の過程が明らかになるでしょう。それらの知識を得ることは、水や有機物が地球にどのように伝わり、どのように生命が誕生したのかを理解することにつながるのです。
------------------------------------------ ■荒舩良孝(あらふね・よしたか) 1973年生まれ。科学ライター。「科学をわかりやすく伝える」をテーマに、宇宙論、宇宙開発をはじめ、幅広い分野で取材、執筆活動をおこなっている。主な著書は、『ニュートリノってナンダ?』(誠文堂新光社)、『5つの謎からわかる宇宙』(平凡社)、『まんがでわかる超ひも理論』(SBクリエイティブ)など