はやぶさ2が挑む「世界初」人工クレーター生成実験とは?
予想外だった広角カメラの感度の低下
ただ、タッチダウンの実施によって予想外の出来事も発生しました。タッチダウンであまりにも大量の岩石の破片や砂が舞い上がったことで、はやぶさ2の機体底面に取りつけられていた広角カメラ(ONC-W1)の感度が、半分に落ちてしまったのです。これは岩石などの微粒子がカメラのレンズにたくさん付着してしまったためだと考えられています。初代はやぶさでは、タッチダウンでカメラのレンズに微粒子が付着することはなかったので、このような事態が発生するとは誰も予想していませんでした。当然、レンズをきれいにするための機構は搭載されていないので、感度が戻ることは期待できません。 広角カメラの感度が落ちても、はやぶさ2の運用にはほとんど影響はありません。唯一影響があるのは、タッチダウン時です。タッチダウンでは、ターゲットマーカーの位置を確認するために広角カメラを使用します。そして、観測したターゲットマーカーの位置から着地予定地までの距離を割り出し、機体を制御していくのです。広角カメラでターゲットマーカーの位置が確認できなくなってしまえば、今後タッチダウンはできなくなってしまうでしょう。 そのような心配もあって、運用チームは予定を変更し、2回目のタッチダウンより先に、人工クレーターの生成実験を行うことに決めたのです。人工クレーターづくりは、衝突装置(SCI)を使用します。
“目隠し”状態で挑戦する「世界初」の実験
SCIには約9.5キロの爆薬が詰められていて、爆発で重さ2キロの銅の塊を秒速2キロに加速してリュウグウに衝突させます。人工物を天体に衝突させる実験は、2005年7月4日に、アメリカ航空宇宙局(NASA)の彗星探査機「ディープインパクト」がテンペル第1彗星に衝突体を衝突させたことがありますが、小惑星では世界初の試みです。 人工クレーター生成実験に向けての衝突装置運用は4月4日から既に始まっています。はやぶさ2は、4月5日午前10時44分頃にはリュウグウから高度500メートル付近に到達し、それから約10分後に衝突装置を分離します。衝突装置は分離された後、タイマーが作動して40分後に爆発し、銅塊がリュウグウ表面に撃ち込まれる仕組みです。 ただし、この衝突装置自体には、姿勢や方向を制御する機構はまったくありません。クレーターを形成する目標地点は定めていますが、目標地点から半径100メートル範囲のどこに衝突するのかは誰にも分かりません。もしかしたら、その範囲から外れてしまうかもしれないのです。そのため、運用チームは「目隠しして流鏑馬(やぶさめ)をするようなもの」と表現しています。 衝突装置が爆発すると、リュウグウの周辺には、装置の破片やリュウグウの岩石の破片が飛び散り、危険な状態になります。はやぶさ2がそのままリュウグウ近くに留まったままでは、機体にたくさんの破片が衝突するのは目に見えているので、そうならないよう、衝突装置が爆発するまでの40分の間に、爆発地点から離れます。衝突装置が爆発する頃には、はやぶさ2は高速の破片が飛んでこない安全な場所に逃れているのです。 これまで、はやぶさ2はリュウグウの目標地点に向けて動いていました。しかし、この退避行動は目標点がない状態で動かなければいけません。いわば“目隠しして”動く状態がしばらく続くのです。