じつは「戦果」が目的ではなかった…「特攻」を強行した大西瀧治郎中将の意外な「真意」
「単騎で突入せよ」
傍らで聞いていた小田原参謀長が、 「先任参謀はこの人を知っているのかね」 と尋ねた。角田は小田原のことをよく覚えているが、小田原のほうは覚えていなかったか、長い戦場生活でかつての記憶といまの角田の容貌が変わっていたか、どちらかであろう。誉田は、 「これはラバウルの撃墜王で、山本栄司令や八木勝利副長(五八二空当時)の秘蔵っ子ですよ」 と、角田を小田原に紹介した。小田原は、 「ふうん、それがまたなんで特攻隊に…………玉井君にも困ったものだな。これが最後じゃないんだから、人選は慎重にするようによく話しておいたんだが」 とつぶやくように言った。 角田が携えてきた小田原参謀長宛の書簡には、列機3機を体当りさせたあと、角田少尉は単機で爆装突入せよ、と書いてあるのだという。 「聞きませんでしたが、それではやります」 と答えながら、玉井司令も中島飛行長も、昔からよく知った仲、直接命令してくれればいいものを、どうしてこんなやり方をするのかと、角田は騙されたような気がした。
歓迎会で明かされた真実とは
その夜、上野中将、小田原大佐、誉田中佐、漆山大尉の4人が、角田たち3人の歓迎会を催してくれた。角田の列機は、今回はじめて一緒に飛んだ辻口静夫一飛曹、鈴村善一二飛曹の2人である。 元はフィリピン軍が兵舎に使っていたという、ガランとした大きな建物。体育館のように床は板張りで、間仕切りもない。その真ん中にアンペラ(絨毯)が敷かれていて、そこに草色の第三種軍装を着た上野中将以下4名と、飛行服姿の角田以下3名が向かい合って座った。照明は小さな裸電球で、けっして明るくはない。 ダバオはもはや食糧が不足しており、出されたのは魚肉の缶詰と白湯、しばらくして基地の特務少尉が探して持ってきてくれた、一升瓶に七分目ほど入った椰子酒のみだった。 宴も半ばの頃、小田原参謀長が、 「皆は特攻の趣旨はよく聞かされてるんだろうな」 と切り出した。 「聞きましたがよくわかりませんでした」 角田が答えると、小田原は、 「教え子が、妻子をも捨てて特攻をかけてくれようとしているのに、黙り続けていることはできない」 と、大西中将から「他言無用」と言われていたという、特攻の真意を語り始めた。