極細の糸で生まれる極上の触感:武藤株式会社
ファッションだけでなく、ライフスタイルそのものを上質に
ーこれから技術的にチャレンジしたいことや、今後の展望はどのように考えていらっしゃいますか? 英之: 「個人的には極細の糸はもうやり切ったと思っているので、 今度は逆に極太の糸でちょっとニッチなマーケットを狙うのも面白いと思っています。手触りのいい糸を織りこなすという技術や素材選びのノウハウもあるので、太い糸の織り方を習得していければと思っています。インテリア市場に少しずつ生地を提案しています」 圭亮: 「テキスタイルメーカーとしてこの技術を活用してファッションのみならず別の市場への進出の必要性を感じ、インテリアカーテンやソファーなどにも挑戦しています。OEMとしても自社ブランドとしても良い素材を使い、ライフスタイルにおいて武藤は素晴らしいものを作っていると多くの方々に思ってもらえるようになりたいと思っています。上質な生活そのものを提案できるような会社にしていきたいです」 英之: 「技術を基本にしておくと、市場の開拓は早くなると思っています。インテリア業界を攻めるのであれば、その市場にない生地を作ればいいと考えています。『触れば分かる』がコンセプトですから、当社ではストールを実際にこう巻いてください、触れてみてくださいと紹介すると、『こんなの触ったことない』と言ってお買い上げいただくお客様が多いです。触ってもらえば分かることが強みですが、オンラインだと伝わらないのですよね」 ー業界的な課題はありますか? 圭亮: 「各工程の設備はありますが、さらにもっと掘り下げると分業化している部分があります。染色をする前の糸を束状にする作業があるのですが、担当している方がもう84歳。自社で機械を入れるにしても1人従業員が必要になりますし、各工程で関わってくれている人がどんどん引退していく可能性があります。我々ももっと大きな規模になれば人も雇えるし、設備投資もできる。ここからが勝負です。当社の場合、いろんな織機を集めていることもあるので、50~100年ぐらいは織機的には問題ないと思いますし、部品なども20年前から集めているので修理して使っていくことも可能です」 英之: 「本当に人の問題ですね。技術ですから、人を呼んできてすぐに習得できるわけではありません。10~20年かかりますからね。面白い技術が詰まっているものが世の中には数多くありますが、最近のSNSは浅い情報だけが拡散されたり、そういう情報を間に受けてしまったりする人も多い印象ですね」 ー最後に、読者に伝えたいメッセージがあればお聞かせください。 圭亮: 「当社のストールや生地は本当に『触れば分かる』というのがモットーなので、実際に体感していただきたいです。購入していただけたら産地・技術の貢献や支援にもつながると思います。 また、私たちのいる西桂町の隣りの富士吉田市が始めた、この地域の織物の素晴らしさを伝えるイベント「ハタフェス」が毎年開催されています。最初は小規模でしたが、今では動員が20万人規模の大きなイベントになりつつあります。富士吉田市の3大イベントの1つになっているんですよ。このハタフェスにも出店して、ストール・ワンピース・バックなどの『muto』のものづくりに触れてもらう機会を作っています。ぜひご都合が合えば、足をお運びください」