極細の糸で生まれる極上の触感:武藤株式会社
細部にこだわり、オンリー細部にこだわり、オンリーワンのブランドを目指すワンのブランドを目指す
ーどういったきっかけで、自社ブランドを立ち上げたのですか? 英之: 「その頃から自社ブランドを立ち上げようという構想が頭にありました。 バブル崩壊後にOEM(他社ブランドの製品を製造すること)の仕事が激減しました。すぐに自社ブランドを立ち上げればよかったのですが、当時はまだその発想がまるっきりありませんでした。一応、OEMの残糸で織ったものを自社商品として出してはいました。ブランドとは言えませんが、OMEとは別の形ではありました。それからオンリーワンの会社になるにはどうしたらいいのかを考え始め、最近では特許関係で試験場の方といろいろ工夫しながら挑戦しています」 ー圭亮さんは建築設計からキャリアをスタートされましたが、異業種から現職に就いたきっかけは? 圭亮: 「以前ハウスメーカーで設計をやっていましたが、お客様と間取りを考えるような部門ではなく、ある程度決まった間取りをより具体的に設計していく仕事で、お客様とやりとりする機会がありませんでした。お客様が喜んでくださるところを見られない環境で設計業務をやっていることが、面白くないと思っていました。実家に戻ったとき、実際にお客様が喜んでくださる生地作りを提案できることが、面白そうだなと思ったことがきっかけです。 当初は工場に缶詰めで機械についてひたすら学んで、今の営業になるまで約3年間、工場で機械の直し方、織り方など生地作りの根幹となる部分に携わっていました。最近では、直接アパレルに営業をかけるなど、良い生地を提案しているという実感があり楽しいです」 ー武藤の製品には素材への強いこだわりを感じます。他社とは一線を画す独自のものづくりについての視点や考えをお伺いできますか。 圭亮: 「極細の天然繊維でストールを織るのはとても難しいです。糸自体が繊細で弱く、普通では織れない糸を使用しているので、その糸を水溶性繊維のソルブロンで巻いて補強しないと生地が織れません。この補強の工程も自社で行っています。生地になった後もソルブロンが残ったままかと思われるかもしれませんが、水溶性のため、水につけると流れ落ちます。ソルブロンを巻く機械も自社にあり、その糸でストールを織ることができるのです。 ここまでの工程を自社で行えるからこそ、当社でしか作れない生地ができあがり、他社からも真似されにくいと考えています」 英之: 「1キロ分加工するのに普通は2~3日で終わる作業も、当社では2週間以上かかるので、なかなか大変です。他社からすればこんな糸は扱えない、それが逆にチャンスです。プロが嫌がる糸です。機械だけあればいいというわけではなく、機械に手を加える必要があります」 圭亮: 「元々は別の糸を作るための機械(強い糸を加工するための機械)で、その機械をどう工夫すればよいかパーツを外して構造を変えてみたりと試行錯誤して、糸を加工できるようになったのは機械を購入してから約1年半後です。それぐらい向き合うことが重要ですね。 入社して3年間で機械や織機に詳しくなりましたが、糸を自社で加工することになって以来、撚糸の機械にもだいぶ詳しくなりました。原料から細い糸にこだわっていたり、経糸の加工から行なったりする機屋(はたや)はほとんどないと思います。糸の加工はアウトソーシングしているところが多いですからね」 ーmuto(武藤ストールブランド)を立ち上げる際に苦労されたことは? 圭亮: 「OEMしかやっていなかったので、まずどんな見せ方にするのか、どこにどういう風に自社ブランドを売っていくのか苦労しています。この地域(山梨県西桂町)ではOEMだけでやっていては衰退していくので、この地域でやっている機屋さんたちに声をかけて、自分たちの名前をつけたものを販売してみようという活動が始まりました。 その時はストール店、ネクタイ店、オーガニックコットン専門の雑貨店などが出店し、そこにバイヤーさんからお声がけがあったりと少しずつ広がっていって、新宿伊勢丹に期間限定でポップアップストアを出店しました。 実際に物は作れますが、今でもどう販売するかが難しいと感じています。ポップアップストアをやると商品は売れますが、オンラインでは見せ方や伝え方が難しいですよね。畑が違うため、少しずつやり方をシフトしていった方がいいかなと感じます。百貨店で一度購入したり触ったりして『muto』を覚えていただいて、リピーターとしてECでも購入できるという認知を広めたり、宣伝も含めてポップアップストアには注力しています」