川崎Fが“今”チェルシーに勝利した意義とは?
チームメイトたちが攻守で圧倒される前半の展開をベンチから見ていた川崎フロンターレの大黒柱、MF中村憲剛(38)の脳裏に閃くものがあった。 「普段自分たちがJリーグでやっていることを、向こうがやっているとすごく感じました。自分たちがボールを取りにいってもダメで、相手に間に入れられて前を向かれて押し込まれる。こちらは全体が下げられているので、ようやくボールを取っても前線には(小林)悠しかいない。これをどうやって打ち破るのかと言えば、すごく難しかったと思う」 プレミアリーグの強豪チェルシーFCを日産スタジアムに迎えた、19日の明治安田生命Jリーグワールドチャレンジ2019。6万人を超える大観衆が見せつけられたのは、J1を連覇している王者が自陣にほぼ押し込まれ、ボールポゼッションで後塵を拝する姿だった。 レジェンドのフランク・ランパード(41)を新監督に迎えたチェルシーは、新チームを始動させてまだ10日とたってない。それでもパスのスピードが桁違いに速く、止めて蹴るという動きを正確無比に展開していく。Jリーグの舞台においては、止めて蹴る、はフロンターレの専売特許だった。それをはるかにグレードアップさせた形で、チェルシーに実践される。中村は唸るしかなかった。 「僕たちが目指せる部分と、どうしようもない部分があった。目指せる部分のひとつは止めて蹴る。しっかり止められるから向こうの選手はいろいろな選手が見られるし、こっちがプレッシャーをかけても何も感じていなかった。前から取りに行けない、という展開は普段はなかなかないことなので。あとはパススピードですね。やっぱり、そこは絶対だなと感じました」 それでも必死に食らいつき、体を張ってゴールを死守するチームメイトたちの姿に、4年前の屈辱的な記憶がいい意味で蘇ってくるのを中村は感じてもいた。
2015年7月7日。まだワールドチャレンジと銘打たれる前のプレシーズンマッチで、ブンデスリーガの強豪ボルシア・ドルトムントの前に、フロンターレは0-6とまさかの大敗を喫している。当時は風間八宏監督(現名古屋グランパス監督)に率いられ、選手の顔ぶれも大きく異なっていた。 シーズンインしたばかりのドルトムントに突きつけられた、世界の壁の高さと厚さが刺激に変わり、日常から掲げる目線も必然的に高くなった。大敗を介して方向を変えたベクトルが、鬼木達監督(45)が就任した2017シーズンで手にした悲願の初優勝と昨シーズンの連覇の源泉になった。 「正直、Jリーグではできている方かもしれないけど、世界と同じフィールドで戦えばまだまだ。差があることはドルトムントのときも知らされましたけど、まだまだ縮まっていない。ただ、それは悲観することでもあるし、別に悲観しなくてもいいかな、というところもあると思います」 特に前半に限った内容は同じでも、4年前と異なるのは結果だった。両チームともに無得点のまま推した拮抗した展開は、終了間際の後半42分に崩れる。チェルシーの牙城に風穴を開けたのはFWレアンドロ・ダミアンであり、アシストしたのは同38分に投入されたばかりの中村だった。 後半に入って9人が入れ替わっていたチェルシーは、蒸し暑さも手伝っていたのか、時間の経過とともに足が止まってきた。そこで獲得した左コーナーキック。相手の息づかいを見た中村は「ショートができる雰囲気があった」と、キッカーのMF脇坂泰斗(24)に近づいてパスを呼び込む。 中村のリターンを受けた脇坂の低目のクロスは相手にはね返されたものの、こぼれ球を拾った中村が山なりの緩いパスをファーサイドへ。飛び込んできたダミアンが身長188cm体重90kgの巨体を宙に舞わせ、打点の高いヘディングを叩きつけてゴールネットを揺らした。 「ショートコーナーでそもそも陣形が崩れていたし、自分がボールを拾った瞬間にニアサイドにけっこう来ていたので、ファーサイドは絶対に空いている、と。なので、ファーへ滞空時間が長いクロスを入れれば、誰かしらデカいやつがバーンといける、と。低いクロスも、中途半端に高いクロスも全部引っかかっていたので、ちょっと思い切ってポーンとやってみようかなと。ダミアンが空いているとは思わなかったけど、上手くいきました」