いまやヘルスケア部門が稼ぎ頭に…事業転換で七変化する「富士フイルム」は、利権まみれの「医療業界」の革命児となるか
「化学」は驚くほど範囲が広い
半導体製造装置・材料などのニッチ分野で、「日本品質」によって市場を寡占しているメーカーが多数ある。 同様に、富士フイルムの「革新」も「日本品質」の高い技術に支えられている。 例えば、トヨタ自動車が自動織機の技術から派生して誕生したことはあまりにも有名だ。 また、4月30日公開「楽器、オートバイ、産業ロボット……次々と世界ブランドを生み出すヤマハの『匠の精神』」2ページ「飛行機のプロペラからオートバイへ」で述べたように、楽器製造のための木工技術から「ヤマハのオートバイ」が誕生している。 富士フイルムは大枠で「化学メーカー」に分類されるが、銀塩写真などで培った高度な技術は、同社HPの「先進・独自の技術力」において詳しく解説されている。 一例をあげれば、同社の化粧品アスタリフトは、写真フィルムの主成分が肌と同じコラーゲンであることが生かされている。コラーゲン研究の他にも、抗酸化・紫外線防御技術、光解析・コントロール技術、ナノテクノロジーという四つの写真技術が活用されている(参照:「富士フイルムの歴史が培った美のサイエンスがアスタリフトの独自で先進的な進化を支える」)。 また、医療においてもレントゲン写真、MRI、CTスキャンなどは写真・イメージング技術が必須である。 さらに、製薬も製造工程に化学をフル活用する。クラレHP「製品のはてな?」で述べられているように、初原料と薬の間の製品である「中間体」は、いわゆる製薬メーカーではなく、クラレのような「化学メーカー」が製造するケースが多い。 銀塩写真から始まった富士フイルムが、「ヘルスケア分野」に進出するのは、大胆なチャレンジではあるが、基本技術を共有できる「業態転換の王道」とも言えるのだ。
利権で固まった医療業界の「革命児」になるか?
富士フイルムの「2024年3月期決算短信」によれば、ヘルスケア部門が、売上げ高で約33%とトップである。 ヘルスケア分野の今後が大いに期待できるが、冒頭で述べたように、日本の健康保険制度が崩壊の瀬戸際にあることには注意しなければならない。 だが、「小林製薬の紅麹の打撃と、住友ファーマ巨額減損の背後にある『医療保険制度崩壊』の影響のどちらがより深刻な問題か?」で述べたように、利権、既得権益で固まってしまった医療業界において、過去数々の革新を成し遂げてきた富士フイルムが活躍することは、「親方健康保険」の医療業界に新風を吹き込むことになるのではないかと期待している。
大原 浩(国際投資アナリスト)