W杯優勝は自国出身監督の歴史に終止符を打てるか?「母国」代表に史上3人目の外国人監督 トゥヘル氏、ドイツ人指揮官の強みとは―
サッカーのイングランド代表監督にドイツ人のトーマス・トゥヘル氏(51)が就任した。「母国」の代表チームを率いる外国人監督は史上3人目(1人目はスウェーデン出身のエリクソン氏、2人目はイタリア人のカペッロ氏)。しかも、今回は「宿敵」ともいえるドイツからの招聘で、イングランドでは1966年ワールドカップ(W杯)以来の主要国際タイトル獲得と期待が早くも高まっている。 トゥヘル氏の経歴を簡単に振り返ってみよう。選手としては成功した部類には入らず、24歳の若さで引退。指導者の道を歩み始めた。いくつかのクラブで育成年代のチームを率いた後、2009年にマインツ(ドイツ)のトップチームの監督に就任。中堅のクラブを欧州リーグ出場にまで導くと、2015年にはドルトムント(ドイツ)の監督となって香川真司を指導し、2シーズン目にはポカール(ドイツ・カップ)のタイトルを獲得した。2018年にはパリ・サンジェルマン(フランス)の指揮官となって、2季目には欧州チャンピオンズリーグ(CL)で決勝に進出。2021年にはシーズン途中にチェルシーの監督の座に就くと、欧州チャンピオンズリーグ(CL)制覇を成し遂げた。ドルトムントの監督だったころあたりまでは、選手への要求も細かく、妥協を許さないイメージが強かった。しかし、年を重ねるごとにビッグネームの選手との無用な衝突はなくなり、欧州のビッグクラブでの指導経験を重ねてタイトルという成果も残している監督である。 監督としての特徴は相手に応じて戦い方を変える点だろう。4-1-4-1や3-5-2、3-4-3と布陣もチームやシーズンによって様々。試合の中でも変化を加えることもいとわない。直近では2023年3月にバイエルン・ミュンヘン(ドイツ)の監督となったが、翌2023~2024年シーズンまで率いた。 イングランドにおけるドイツ人監督への「信頼度」はクロップ氏によるところも大きいだろう。リバプールの監督として欧州チャンピオンズリーグ(CL)を2018/19年に制覇。翌シーズンには30年ぶりのリーグ優勝(プレミアリーグになってからは初優勝)を成し遂げ、1980年代に黄金期を迎えていた〝レッズ〟を復活に導いた。監督としてマインツで頭角を現し、ドルトムントで成功を収めたという経歴で、トゥヘル監督の指導者人生の前半はクロップの背中を追うように同じルートをたどっている。 ただ、ゲーゲンプレスという言葉に象徴されるドイツらしい強烈なボール奪取と、ショートカウンターを存分にピッチで発揮して「縦」「スピード」といった印象が強いクロップ監督のサッカーに対し、トゥヘル監督はもう少しソフトである。監督のキャラクターとしてもモチベーターとしてのカリスマ性はクロップ監督に及ばないかもしれない。かといって、グアルディオラ監督ほどボール保持に強烈にこだわって相手守備を翻弄して崩しきるような、一つの戦術を極限まで突き詰めるような戦術家というわけでもない。ある意味では、与えられた陣容に即して最適解を導くタイプの監督といえる。