カナダが“アジア系と共生する道”を選んだ経緯 アメリカよりも欧州、なかでも北欧に似ている
「立派なカナダ人に教育し直す」として連れ去られた先住民の子どもたちは、実は殺害されていた――番幼い遺骨は3歳だったというニュースに、人々は震撼しました。 先住民への残虐行為。これはカナダ全体にとって大きな社会的衝撃でした。その強い反省が、多文化共生を目指す、もう一つの原動力になったと私は捉えています。 現在のカナダは一国主義路線と国際協調路線の軸で言えば、明らかに国際協調路線。アジア系の移民をどんどん受け入れ、相当程度同化しています。ここ数年、私は仕事でカナダ西海岸を訪れていますが、街ゆく人もビジネスで会う人もアジア系の比率は高く、だから特別ということもありません。
「香港生まれのカナダ人です」「両親は中国系ですが、私はカナダ生まれのカナダ人です」などと、民族の文化を継承しつつカナダ人としてのアイデンティティを持っているようです。自由のなくなった香港からの移住者も多数です。長く住んでいる日本人は、「いつカナダの市民権を取得するのか」と聞かれるほど。 アジア系が多いのはカリフォルニアと似たところがありますが、国全体として比較すれば、アメリカよりカナダのほうがより“アジア系の多文化共生”の雰囲気を感じます。
多文化共生が法律化されている今、さまざまな文化を受け入れ、尊重するというリベラルな姿勢が、自由党と保守党、程度の差はありますが、どちらにも表れていると感じます。 ■地域政党、ケベック党 国全体としてリベラルなカナダ。その素養を政治的に体現しているのが地域政党の存在です。 全国政党は国のために、地域政党はその地域の利益を実現するために政治活動をするということ。カナダには州が10あり(準州は3)、全国区の自由党と保守党の他に地域政党がいくつもあります。
なかでも地域政党と言いながら全国第3位の議席数を持ち、発言権を持っているのが、ケベック州のケベック党(Parti Québécois)。ケベック州はフランス語が公用語でフランス文化を重んじ、独立運動が起きた過去もあります。ただし現在は「カナダの一員として独自の文化を守る」という立場で、これも多文化共生につながっています。 アメリカもまた広大な領土と50もの州をもつ国ですが、あれだけさまざまな民族や人種がいるのに、特に勢力のある地域政党はありません。