「死にたい気持ちを受け止める」今年で44周年の大阪自殺防止センター #今つらいあなたへ
「人生の物語」を受け止める
相談者が告白する悩みは、「お金がない」「夫からのDV(ドメスティックバイオレンス)に苦しんでいる」など、人それぞれです。 ところが、相談者が口にした悩みとは別のところに、真の問題が隠れているケースもあるそうです。北條さんは「相談事例はそのまま紹介できませんので」と断った上で、いくつかの事例を組み合わせて作ったというたとえ話で説明してくれました。 ある40代男性の相談者が「今、お金がない。もうどうすることもできないので死のうと思っているんです」と言ってきたとします。これだけ聞くと、お金がないので困っているのかな、と思いがちですが、「お金の問題がクリアされれば生きたいですか」と尋ねると、相談者は「いや、クリアされても死にたい」と答えるのです。 よくよく話を聞いてみると、相談者の父親との関係が問題の根本にあることがわかりました。 父親は、相談者の幼いころから「こつこつ働きなさい。人間というものはお金がすべてではなく、周りの人間関係こそが大事なんだ」と教えてきたそうです。これに対して、相談者は「こつこつ稼ぐなんて嫌だ」と反発。高校卒業後に家を出ると、投資などで一攫千金を狙います。大金持ちになって「どうだ親父、俺の考えの方が合っていただろう」と胸を張りたかったのです。 しかし、なかなかうまくいかないまま、相談者が30代の半ばになったとき、父親が病気で亡くなってしまいます。認めてもらいたい存在をなくしてしまった相談者はその後、ずるずると何の目的もなく過ごして40代に。生活費を稼ぐための派遣労働者の仕事もなくなり、お金もなくなって、いよいよ生活が厳しくなってしまったのでした。 相談者が口にした「もうどうすることもできない」とは、お金がないことではなく、「生きる目標を失って、これからどうしたらいいんだ」という心の叫びだったのです。北條さんは「そういった人の心を支える役割、その人の人生の物語を受け止めるのが私たちの役割なんじゃないかなと思っています」と話します。