「今に見てろよ」巨人を変える新監督・阿部慎之助が語った盟主復活への思い #昭和98年
「暴走しろ、困ったらど真ん中」の真意
2023年のプロ野球は38年ぶり2度目となる阪神タイガースの日本一で幕を閉じた。その陰で22度の日本一を誇る巨人は球団史上2度目となる2年連続Bクラスに終わった。任期を1年残して退任となった原辰徳監督から後任の打診を受けて受諾したものの、ヘッド兼バッテリーコーチとしての責任を痛感させられていた。しかし、原からの「慎之助で良かった」という言葉で吹っ切れた。 2001年に入団以降、巨人のために尽くしてきた。2019年限りで現役にピリオドを打ってからも二軍監督を2年こなし、原のもとで一軍のコーチを2年務めた。“ミスター”長嶋茂雄から原へとバトンを託されたように、原からのバトンを受け取らない選択はやはりなかった。 10月6日の就任会見で阿部は、こう明言した。 <若い選手が多く、優勝経験のない選手も多数います。そういう選手たちに勝つ喜び、優勝する喜び、すべてを感じてもらいたい。そのためにまず自分自身が変わる。そうすれば選手たちも僕を見ているのでそこからがスタートになる> 「変わる」を新生ジャイアンツのキーワードとした。それも「みんな変わってくれ」ではなく「先に自分が変わってみせる」だ。実際、阿部は秋季キャンプにおいても声掛けから変化させている。 「『真ん中投げるな』と言うより、『困ったらど真ん中、真っすぐ投げろ』とか、状況判断して『走塁しろ』と言うより『暴走しろ』とか、こちら側からそう言ってあげれば、選手たちも楽な気持ちでやれる。『ミスするな』って言うのと、『ミスしていいから思い切りやれ』と言うのでは全然違いますから。今の世代の選手たちを動かしていくのはなかなか難しいと考えてきたなかで、前向きなことを言っていく。ここはもう意識して変えています」
コミュニケーションも一方通行にならないように。選手側からもさらけ出してもらうべくオープンマインドを心掛けている。 これはコーチ時代に感じたことでもあった。 「『何々しなさい、何々してはダメだ』となると、今の選手たちはそっちのほうばかりを気にしてしまうのかな、と。そうなるとネガティブな方向に行きがちなので、選手たちにはまずここから変わってほしい」 ただ“温かく見守る”ということではまったくない。あくまで選手の自覚と能力を引き出していくためである。コーチ時代には二軍から一軍に上がった選手がチームメートの前で抱負を述べる際に「頑張ります」「貢献します」ばかりになり、それだけで終わらせないようにしたことがある。 「頑張るために、貢献するために自分は何をやっていくんだっていうところまで言い切ってもらうようにしました。そうすれば周りに思いが伝わるし、自分に責任も生まれる。いい仕事ができていくと僕は思っていますから」 自分と向き合い、そして巨人軍と向き合う。阿部にとって改革の一丁目一番地は、ここでなければならなかったのだ。