「青春に文科省も厚労省も関係ないのに……」車椅子での高校生活から見えてきた学校での介助をめぐる問題
心ゆくまで青春を楽しめる制度に
3月9日には、ハンドブックの完成を記念したイベントも神戸市内で開かれた。ハンドブックの内容説明のほか、介助員を利用しながら学校生活を送るSMAⅡ型当事者の現役高校生が参加した座談会も行われた。 大阪府立の高校に通う高校生は、介助員との関係で困ったことについて「私のやってほしいことが伝わらなくて困りました。たとえば、支援員さんによっては、手出し口出しすることや、気をきかして先回りすることが支援だと勘違いしていた」と振り返り、「手伝ってほしい時に手伝ってほしいことだけを…と何度も伝えて、少しずつ理解してもらえるようになってきました」と苦労を語った。 制度に対して問われると「年に一度は聞き取り調査をしながら、当事者を含めて、見直しをしてほしい」と訴えた。 ハンドブックの編集やデザインを担当した、アクセサリー作家でSMAⅡ型当事者の小暮理佳さん(27)も座談会に参加した。小暮さんは、高校生の時に部活の時間に支援員制度を活用できなかったり、文化祭の準備で友人と一緒にいたいのに一人だけ帰らなければいけなかったりした時のことを振り返り、「『青春に文科省も厚労省も関係ないのに、なんで私は制度を組み合わせて生活しないといけないんだ』と思っていた。心ゆくまで青春を楽しめる制度になってほしい」と語った。
「私たち抜きに私たちのことを決めないで」
「私たち抜きに私たちのことを決めないで(Nothing About us without us)」 2006年に国連で採択された「障害者権利条約」(日本政府は2014年に批准)は、この言葉を合言葉に世界中の障害当事者が参加して作られた。このスローガンの背景には、障害当事者が自分の人生を自ら選択し決定することが許されなかったという実態があった。 しかし、イベントで登壇した当事者の声などからもわかるように、学校での介助をめぐるさまざまな問題の多くは「当事者主体」の欠如が原因で起きている。学校教育の現場では、未だに前時代的な保護的支配の考え方が強く、障害当事者が自分の行動を自分で決定できない状況に疑問を持たない人が多く存在している証拠と言えるだろう。 また、子どもの権利に対する意識の低さもこの問題の根底にある。1989年に国連で採択された「子どもの権利条約」(日本政府は1994年に批准)は「子どもの意見の尊重(子どもが意味のある参加ができること)」が原則の一つだ。しかしこの条約の発効直前に文部省(当時)が出した通知の内容が、子どもの意見表明権の重要性を軽視するようなものであったことが影響しているためか、学校教育の現場は必ずしも子どもの権利を中心に据えたものとなっていない。 今回完成したハンドブックは「公立高校」に限定した形をとっているものの、書かれている問題のほとんどはすべての学校教育の現場に共通のものだ。また、身体障害者だけでなく知的障害者にとっても共通の問題だ。一刻も早く、座談会で高校生が話したように、「当事者」である子どもたちの意見を取り入れながら制度の改善を進める必要がある。
公立高校での介助って、実際どうなの? ~特別支援教育支援員って、どんな制度~
ハンドブックは18ページ。カラー。海老原宏美基金の助成を受け、200部発行した。内容は「一般社団法人わをん」のWebサイトですべて見ることができる。問い合わせもWebサイトのお問い合わせフォームから。