仏ファッション誌が「日本のロックバンド名の使用停止」を訴えた騒動のてん末… 知財高裁が下した判断は
理不尽事件のきっかけは、最初のクレームに屈したから?
事件のきっかけは、ELLEGARDENが活動初期に使用していた「ELLE」と「GARDEN」が二段に分かれたバンドロゴの入ったアルバム(図1)を見つけたアシェット社が、ELLEGARDEN側に使用中止を求めて警告したことだった。 確かにこれは「ELLE」の部分が目立つので気持ちは分からないではなく、バンドの当時の所属事務所も、要求を容れてCDを回収し、「ELLEGARDEN」の一続きのロゴに変更して再出荷している(ただし、後の裁判で、このロゴをCDにおいてバンド名として使用しても、「ELLE」ブランドと何らかの関係を有すると誤認混同されるおそれはないと判断されている*1) *1 知財高裁平成20年(行ケ)10347号事件 ここまででアシェット社は矛を収めておけばいいものを、調子に乗った同社は、今度は同バンドのコンサートグッズやバンドスコアなどにおける「ELLEGARDEN」の一続きの表示に対しても、次々と使用中止を要求したのである。 「悪いと思ってんならコレも止めろ、アレも止めろ」とは、いかにもなクレーマーだ。この警告にELLEGARDEN側が応じなかったので、訴訟に至ったというわけだ。 なお、回収されたアルバムに関しても、製造業者の手違いにより旧版が一部増刷され市場に出回っていたことから、こちらも改めて差止請求訴訟の対象とされている。
ELLE誌が展開する苦しい主張のオンパレード
しかし、繰り返すが両表示が似ているとは思われないし、またELLEGARDENのコンサートグッズやバンドスコアがELLE誌の関連商品だと誤解されることがあり得るだろうか。 あり得ないと断言できる。そもそもこうしたバンドの公式商品は、そのバンドのファンに向けた商品だ。ファンにとって、ELLEGARDENがELLE誌と関係がないことは自明である。 加えて、彼らのグッズには、いかにもパンクバンドらしい、ドクロや血の滴りなどの禍々しいデザイン、DEADやSHITといった血なまぐさい表現があしらわれている(図2)。ELLEGARDENを知らない、高所得層のOLやマダムが中心のELLE誌読者にとっても、明らかに別物としか思えないだろう。 実際、混同可能性についてのアシェット社の言い分は苦しいものだった。例えば、検索サイトで「ELLE」と入力すると、ELLEGARDENのウェブサイトも検索結果に表示されてしまうなどというのだ。しかしこれは、「インド」と検索して「インドネシアの情報も出てきてしまう」などと言って勝手にキレているのと一緒である。検索サイトの仕様や自社のSEO対応の弱さの問題でしかなく、それを商標権侵害であるかのようにこじつけているに過ぎない。 さらに、「ELLE」の関連商品を購入しようとウェブ検索して、ELLEGARDENのサイトにアクセスしてしまった人は、そこから何クリックかすれば、ELLEGARDENのサイト内のツアーグッズ通販ページに辿り着いてしまうのだから、混同のおそれがないとはいえないとも主張した。 フィルタリングが必要な子どもじゃないんだから、いい大人がそんな迂闊な間違いをするだろうか。事件当時に近いELLE誌の媒体資料(2010年調べ)によると、同誌の読者は「6割近くがフルタイムの仕事に就いている有識者」だというが、その割には、読者の知能レベルを相当低く見積もっていることがうかがえる。