仏ファッション誌が「日本のロックバンド名の使用停止」を訴えた騒動のてん末… 知財高裁が下した判断は
裁判所の判断の決め手は……?
こんな詭弁のような主張で、アシェット社が勝てるわけがない。実は東京地裁では、「ELLE」と「GARDEN」は別々の単語に分解することができるという理由で、アシェット社に有利な判決が出たのだが、控訴審ではELLEGARDEN側が怒涛の反論を展開。ELLE誌と無関係の「ELLE〇〇」からなる商品名や登録商標の例を多数証拠として提出し、バンド名の使用を制限されることは表現の自由の侵害と訴えた。 その結果、知財高裁は、ELLEGARDEN側の主張をほぼ全面的に認めている。両商標が混同される可能性について、ELLEGARDENのグッズのデザインがELLE誌のイメージとまったく異なるパンクロック調であることや、デパートなどの一般市場ではなくライブ会場やバンドの公式サイトで販売されるツアーグッズである点、バンドの活動実績などを踏まえ、「およそ重なる余地がないものといわざるを得ない」「商品の出所の混同を来す場合があるとは容易に想定し難いというべき」と全面否定した。そして以下のように述べ、「ELLE」と「ELLEGARDEN」は非類似の別物と認定している。 <総合的に考慮すると、被告標章〔ELLEGARDEN〕は、それ自体の体裁、その現実の使用態様におけるイメージ、実際の販売方法、著名なロックバンドの名称として相当程度の期間使用されてきたという事情等からして、〔…〕本件ELLE商標が著名であることを考慮したとしてもなお、「ELLEGARDEN」という被告標章を「ELLE」部分と「GARDEN」部分とに分断すべきものと解することはできない>
見事な逆転勝訴でフランス企業の暴走を阻止!
こうして、ELLEGARDENはアシェット社に見事勝訴を収めた。唯一、最初のクレームの対象になったアルバムだけは差止請求が認められたが、これはELLEGARDEN側が既に自主回収を決めており、争わないと表明していたからであろう。 裁判で「判決の結論にかかわらず、以後についても一切使用する意思などない」とハッキリ宣言されている。さらに、前述の通りこのアルバムの表示については、別件の訴訟で「『ELLE』ブランドと誤認混同のおそれはない」と、合法と認定されたも同然の判決が出ている。実質的にはELLEGARDENの全面勝訴といえよう。 実はこの事件以前から、アシェット社は日本で「ELLE」という言葉を含む商品(JOELLE、ELLECLUB、ELLE MARINEなど)を販売する事業者に対する訴訟を乱発し、事業者から恐れられていた存在であった。しかしELLEGARDENに敗訴した後は、こうした傾向は鳴りを潜めている。2023年には、「HOTEL ELLLE」という富山県のラブホテルの商標に異議申立をしたが、負けている。 「ELLE」を含む言葉の過剰独占を目論んだアシェット社の暴走を食い止めたロックバンドELLEGARDEN。その功績は大きいといえよう。バンドはこの裁判の勝訴を見届けた2008年に活動休止したが、2018年に同名で再始動。その後も精力的に活動している。
友利昴