人類が争いを回避するヒントはここに隠されていた…とあるサルが獲得した「驚きの能力」
人類は進化の過程で共感力を獲得し、言語を発達させてきた。そのなかで生まれたのが歌やダンス、演劇だった。そうして演劇は人と人とを繋ぐ芸術となっていった。戦争が止まらないこの時代にこそ私たちもう一度立ち止り、人類の来し方に思いを馳せたい。群像にて連載中の『ことばと演劇』では、劇作家の平田オリザが演劇の起源に迫っている。※本記事は群像2025年2月号に掲載中の新連載『ことばと演劇』より抜粋したものです。 【画像】人類と他の霊長類を分ける「決定的な分かれ道」 前回の記事〈なぜ人類だけが「演じる」ことができるのか…他の霊長類と私たちを分ける「驚きの能力」〉はこちらから読めます。
「認知革命」というキーワード
以前、大きな話題となった『サピエンス全史─文明の構造と人類の幸福』(河出書房新社)の前半部分では、「認知革命」という言葉が頻繁に登場する。念のために書いておくと現在「認知革命」という言葉は二つの意味で使われている。一つは一九五○年代以降の認知心理学などに代表される認知科学の発達と、そこから派生する様々な知的運動。これが従来の使われ方だった。しかし『サピエンス全史』で使われる「認知革命」は、歴史上七万年から三万年前あたりに起きたとされるホモ・サピエンスの認知能力の革命的な変化を指す。その核心部分が、先に示した「虚構を共有する能力」だ。 霊長類研究、とりわけゴリラの研究で知られる山極壽一氏は、『共感革命 社交する人類の進化と未来』(河出新書)において、この認知革命論を土台としながら、さらに「認知革命」の前に「共感革命」があったのではないかと指摘している。 七百万年前、人類は他の類人猿と袂を分かち、ゆっくりとした、しかし独自の進化をはじめた。まずは、よく知られる直立二足歩行。 どちらかというと人類は、ゴリラやチンパンジーに追い出されるようにサバンナ(平原)へと足を踏み出したのだが、もう一つ、私たちの祖先が、この危険な平原に出て行った大きな理由は「好奇心」ではなかったかと言われている。多くの動物は子ども時代には好奇心を持つが、成長につれてそれが失われていく。ヒトだけが、成人してもそれを失わない。ニワトリが先か卵が先かはわからない。好奇心を持った類人猿が森を出たのか、広く開けたサバンナがヒトの好奇心を育てたのか。 二足歩行の効用はいくつかある。移動におけるエネルギー効率の良さ。風景を見渡す視野の広がり。遠くまで食物を集めに行ける。また集めた食物を運ぶことが出来る。手を使えるようになったこと、そして手の機能の進化が、のちに道具の利用も可能とした。 だが山極氏は、これらの従来言われてきた二足歩行の恩恵以外に、もう一つの効用として「踊る身体」の獲得を挙げている。チンパンジーの子どもでも、くるくると回るような仕草を楽しむことはある。しかし二足歩行をするようになり、上半身と下半身で別々の動きが出来るようになった人類は、他の類人猿とは比べものにならないバリエーションの動き=ダンスを手に入れた。