菅首相が掲げる「脱炭素社会の実現」 カギとなる洋上風力発電は、日本で広まるのか
菅義偉首相は1月18日の施政方針演説で、「2050年の脱炭素社会の実現」を改めて掲げた。その切り札として期待されるのが、海上に風車を設置する洋上風力発電だ。温室効果ガスの排出がなく、現在複数の区域で事業化が検討されている。将来的には日本の主力電源になる可能性もある。ただし、現状での実績は皆無に等しい。洋上風力は日本の希望となるのか。銚子沖や事業者を取材した。(取材・文/ジャーナリスト・小川匡則)
沖合3キロにある洋上発電所
千葉県銚子市のマリーナから船に乗り込み、沖合に進むこと10分。海上に設置された1本の風車にたどり着いた。海面からの高さは126メートル、羽根が回転して描く円の直径は92メートルの銚子沖洋上風力発電所だ。沖合における着床式の洋上風力発電所として、国内で初めて設置された。着床式とは、風車の基礎を海底に固定する様式だ。 運営するのは東京電力リニューアブルパワー(以下、東電RP)。広報グループの白石剛士氏はこう説明する。 「2009年にNEDO(新エネルギー・産業技術総合開発機構)が開始した実証実験のプロジェクトで、最大で毎時2400kWの発電ができます。2019年からは当社が商用運転を開始しています」
風力発電の仕組みは単純だ。風車が回転するエネルギーを発電機に直接伝えて電気を起こす。ただし、一定以上の風が吹かないと発電できないため、強い風を安定的に受けられるかどうかがカギとなる。 筆者が見学した1月5日は晴天で、陸上ではあまり風を感じなかった。しかし、船が陸から離れるにつれ、風の強さを感じてくる。風車は約6秒間で1回転する速さで回っていた。 「この回転ならば、1時間の発電量は1400kWくらいです」と東電RP風力部の福本幸成氏。これ以上の強い風を長時間受けられる場所は陸上にはほとんどないだろうとしたうえで、事業としての洋上風力のポイントは二つあると言う。 「一つは建設コストをどれだけ抑えられるか。二つ目はどれだけ止めずに風車を回せるか。1カ月止まってしまうと発電ロスが大きい。そのためにはメンテナンスをいかにうまくやれるかが重要になってきます」