菅首相が掲げる「脱炭素社会の実現」 カギとなる洋上風力発電は、日本で広まるのか
2010年から運転している洋上風力
茨城県神栖市の護岸から約50メートルの洋上に15本の風車が立ち並ぶ。運営するウィンド・パワーの小松崎忍専務は、運転開始は2010年だと語る。 「1997年の京都議定書で二酸化炭素削減の動きはあったものの、再生可能エネルギーを導入していこうというほどの機運はなかった。当時、周りからは『洋上風力なんて苦労してわざわざやるほどのことなのか』と驚かれました。しかし、その頃からすでに欧州では洋上風力が本格的に始まっていたんです」
風車は陸から近い距離に立っているため、「洋上風力」という言葉のイメージとはやや違う印象を受ける。 「建設当時も『こんなのは洋上風力じゃない』と言われました。ですが、当時日本ではまだ洋上に船で風車を建てる技術がなかった。そこで、今ある技術でできないかと様々な工事関係者と考えました。その結果、クレーンを置いてアームが最大に伸びる、陸から50メートルに建設したのです」 かつて風力発電は、騒音や低周波音による健康被害が問題になったことがある。しかし今回、風車までわずか150メートルの同社にいたが、窓を開けても騒音や振動を感じることはほとんどなかった。小松崎氏は風車自体が昔よりも改良されていると語る。 「過去に健康被害があったとされるのは、民家までの距離が1キロ以内のところに設置されたものです。現在はそれ以上の距離を取った場所に設置するようになっています。これが洋上風力になれば、設置場所はさらに遠くなるので、健康被害の心配はないでしょう」
ここの15基の風車で年間約5300万kWhを発電していて、約1万5000世帯分の電力をまかなうことができるという。ここと同等の風力が得られ、風車も並べられる区域は、国内にそう多くはない。そうなると、沖合で本格的なウィンドファームを造っていくのが現実的な選択となる。
「原発30基分」の目標
昨年7月、梶山弘志経済産業大臣は洋上風力を「2030年までに1000万kW(10GW)、2040年までに3000万~4500万kW(30~45GW)を目標とする」と発表した。1GWは原発1基の発電容量とほぼ同じなため、「原発30基分」とも報道された。だが、掛け声だけでなく、それを後押しするための政府の動きも数年前から活発になっている。 従来、「洋上風力として海域を利用する際のルールが明確ではない」「漁業者に対する調整を図るルールがない」などの問題があった。そこで再エネ海域利用法が作られ、2019年4月に施行された。同法で作った仕組みはこうだ。 経産省と国土交通省がまず「有望な区域」を選定する。区域の風況や海底地形などの自然状況、航行状況などの調査を実施するとともに、官民協議会を設置し、地元との調整を図る。そして、地元の合意が得られた区域を「促進区域」に指定し、公募で事業者選定を行う。